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4 颯珠の弱さ
「それで、どうだったの? 昨日のイベント」
「あぁ……うざかったな」
「それ、木崎くんの前で言ってないよね?」
「言うわけねぇだろうが、もっとうざくなる」
チャーハンをスプーンで掬いながら、一朔は思い切り眉をしかめた。
昼休みの賑わっている食堂へ、琥陽は一朔と二人で昼食を食べに訪れていた。
いつもは二人きりになんてさせないとばかりに颯珠もついてくるのだが、今日はやめておくらしい。
あれでいて颯珠の交友は広い。同級生だけでなく先輩とも親し気に話している所を目撃したことがあり、部活にも入っていないのに良く仲良くなれるものだと感心したものだ。
今日もその先輩と遠くで一緒に昼を食べているのが見え、なんだかな~と頬杖をつきながら皿をコツンと箸でつついた。
「木崎くんと、部屋でどう過ごしてるの?」
「気になるか?」
「うん。外でもあんなだったら、部屋ではすごいんじゃない?」
「そりゃ我慢して、ずっと引っ付かれながら自分の事してるけど?」
「……安易に想像つくね」
朝食の様子を見ていればその光景は見たことがあるように頭に浮かんだ。
ちなみに今、玲雄は教室で寝ているらしい。起きていたら一朔についてこようとするが、授業中に眠りそのまま眠り続けているのだとか。
最初の頃は先生も起こしていたのだが、今では大半が諦めている。クラスの皆は、玲雄と言ったら寝ている姿か一朔に引っ付いている姿しか思いつかないに違いない。
「お前は? 卯田に、ついにバレたんだろ?」
「あぁ……大変だった、ね」
両手で顔を覆いながら、琥陽は昨日の様子を思い浮かべた。
学校から帰りそのまま眠ってしまっていたため夕食を食べ損ねていた。なので颯珠が食堂に行き帰ろうとしていた食堂のおじちゃんを捕まえ、彼から渡されたおにぎりを部屋で食べて、風呂に入ったり歯磨きをしたりして寝る準備を整えた。
課題を終わらせ懲りずに部屋を出ようとした所をとらえられ、颯珠のベッドに連れ込まれて。
そのまま腕の中に閉じ込められてしまった。
颯珠は温もりに安心したのか、琥陽の事を抱き枕とでも思っていたのかすぐに寝息を立てていたが、琥陽は中々寝付けなかった。
あんな事があったのだ、その元凶である颯珠の腕の中など、一番眠れない場所である。
朝方まで寝付けずにいたので、琥陽は今日寝不足であった。
「お互い、ペアには悩まされるな」
「だね~」
同時にはぁと口から息が漏れる。
一朔は玲雄に自分を諦めさせるためにはどうすれば良いかといつも苦悶しているし、琥陽だって、最近自身の秘密にしてきた事柄が立て続けに颯珠にバレ心が追い付いていない。
それに、恋人の振りをしているだけだと思っていた颯珠の気持ちが自分に向いているのだと知ってから、颯珠の距離感がおかしくなった。
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