1 そんな感じの学園生活です

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「美術部の?」 「そ、そう。一気に運べるかなと思ったんだけど、ダメだったみたいで……め、迷惑かけて、ごめんね」 「ううん、いいよ。せっかくだし美術室まで運ぼうか?」 「え? い、いいよそんな、悪いし!」 「大丈夫、今時間つぶしてた所だから!」  よいしょ、と大きなキャンバスとイーゼルを持ち、彼は段ボールを持つ。  どうせ颯珠は遅れてくる。なのでそれまでの時間は大丈夫だろうと、特別棟までの渡り廊下を彼と歩く。 「ご、ごめんね、僕、アルファが苦手で……感じ、悪いよね。本当にごめん」 「ううん、そんな事ないよ。俺、背高いから怖がられる事も多いしね」  人懐こい笑みを浮かべ、琥陽は美術室の扉を足で開けた。  琥陽の背は百八十五センチある。アルファにしても大きく、いつも頭一つ分飛び出てきた。  元々アルファが苦手なら、そんな大柄な男怖いに決まっている。なのでせめて怖い印象を和らげるようににこにこと笑いながら荷物を置くと、彼は「ありがとう」と僅かに笑ってくれた。 「江部くんは、他のアルファと何だか違うね」  そんな誉め言葉と共に別れて、今度こそ先生の元へ向かおうとする。  けれど美術室を出た所で颯珠が壁に背をつけ待っていて、「浮気?」と冷笑を浮かべてきた。 「ち、ちがうって、ただ荷物を運んでただけで! 颯ちゃんこそどうしたの!? 用事は!?」 「その用事の帰りにあんたが見えたから、待ってたんだけど?」 「ならほら行こう! 先生、待ってるよ!」 「手は?」 「……ハイ」  そのまま歩こうとした琥陽を引き止める言葉に、琥陽は諦めたように手を差し出した。  その手に手を重ねると、颯珠は指を絡めてくる。 「こんな、誰も見てない所でも恋人の振りって、する必要あるの?」 「あるよ。あんたのボロが出ないように、いつでも振りはしとかないと」 「でも颯ちゃんの口調は崩れてるじゃん」 「オレは琥陽みたいに、ボロなんて出さないからね」  二人仲良く手を繋いで歩きながら、琥陽はむっと頬を膨らませた。 「俺、ボロ出したことないし」 「……へ~」  琥陽の言葉に意味深な視線を向けると、颯珠はいきなり琥陽のネクタイを掴んできた。  バランスを崩しながらも近づく颯珠に危機を感じ無意識に両手で口を覆う。 「本当の恋人なら、そんな反応しないんじゃないの?」 「~~~っ、こ、公衆の面前でそんな場面になる事ないでしょ!」 「分かんないよ? オレの気分次第だし」 「しないでよ!」  そう叫ぶものの『うん』とも『ううん』とも言わない颯珠に肝を冷やしながら、一瞬手に触れた唇の感触を早く消してしまおうと、また手を結びなおした。
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