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前々からくっついてくる事が多いなと思っていたのだが、気が付いたら颯珠の手がどこかしらに触れていて、慌てふためく事が多くなった。
その反応にまた颯珠がからかってくる。
けれどその目が何だか生暖かくて、居ても立っても居られなくなるのだ。
二人きりが気恥ずかしくなって、不自然に顔を逸らしてしまう事も多い。
こういう時、ルームメイトというのは厄介だ。
二人きりを逃れる場所を、安易に探せないのだから。
「やぁやぁ、イベントをサボった江部琥陽くん」
と、そんな事を考えながら頭を抱えていたら、無理に上げていると分かるテンションで声が掛けられた。
「りょ、寮長!? って、サボったわけじゃ……!」
「分かっている、事情がある事は。だがあれは強制参加のイベント、参加しなければ何かしらのペナルティがあるのは知ってるだろ?」
「……はい」
食べ終わったタイミングを見計らったように声をかけてきた寮長は、昨日のイベントで疲れたのだろう。はっきりと隈の刻まれた顔を琥陽に向け、凄みのある怖い瞳を細めた。
「ちょうどあそこに卯田颯珠もいるな……お~い、卯田、ちょっと来てくれ!」
寮長が手招くと、すぐに颯珠が「なんですか?」と外行きの顔で近づいてくる。
「昨日のイベントのペナルティだ。お前らには、ポッキーゲームをしてもらう」
「……ここで、ですか?」
「嫌か?」
「嫌、ではないですけど……」
含みのある顔を、颯珠は琥陽に向けた。
この学校で行われるイベントはペア同士の仲を深めるために行われる。つまりは恋心を加速、または芽生えさせるために行われるのだ。
そのイベントをサボったという事は、そのペアにはまた別の恋心を加速させるようなイベントを催さなければならない。
今回のイベントは寮で行われたので、責任は寮長にある。疲れたからか手ごろにできるポッキーゲームは実に実行しやすく、何とも寮長らしい。
「お前ら、人目も気にせずいっつもいちゃついてんだからこれくらいどうってことないだろ。放課後改めて、っつーのも面倒だし、今ちょうど二人揃ってんだからいいじゃねーか」
別に途中で折ってくれて構わねーからよ~、と駄々をこねるように言われ、琥陽は颯珠と目を合わせた。
やれやれ、と颯珠が首を振り、琥陽は「分かりました」と寮長からポッキーを受け取る。
それまで騒がしかった食堂が一気にシンと静まった。皆こちらに注目しており、そんな中、背の高い琥陽が席に座ったまま、手渡したポッキーを颯珠が口に咥えさせる。
カリ、カリ、とチョコの部分を少しずつかみ砕き、颯珠の顔が近づいてくる。
膝の間に足をつかれ、颯珠の手が頭の後ろに回った。支えられながらどこで折るのだろうと颯珠の様子を見守っていたら、中々折れないそれに段々と琥陽は慌てだす。
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