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「バレた?」
けれど、思っていたのとは違う言葉が耳に届いた。
「でもあれはただの気まぐれで、付き合ってるわけじゃなかったし……さっきのがファーストキスってことで良くない?」
首を傾げながらそう言ってくる颯珠を、琥陽は思い切り突き飛ばした。
「颯ちゃんの、バカ!」
そう投げ捨て、追い付かれないよう駆け出した。
ふと遠くで鐘の音が聞こえた。昼休み終了時だけに流れる、オルゴールの音。
けれどもいいや、と歩く足を止めず、琥陽は目的地も決めずにただ歩いていた。
後ろを振り返ってみるけれど颯珠が追いかけてくる気配はなく、それに安心したのか悲しくなったのか自分でも分からず、ただきゅっと唇を噛みしめる。
イライラしたように足を速め、その足が段々とゆっくりになり、やがて止まった。
「あれ……何で俺、怒ってんの?」
自分で自分の胸にわだかまる感情が分からなくなって、首を傾げる。
颯珠とは本当に付き合っているわけじゃない。今まで何人の人と付き合ってきたのだとか、キスしたことがあるだとかないだとか気にする立場になくて、あの状況では颯珠の言っていた通りキスするのが正解だった。
そんな正論を並べて自身に言い聞かせてみても、胸の靄は消えやしない。
「おい……大人しく、しろって……」
「……っ」
「お前から誘ってきたんだろ?」
と、立ち止まり自分の感情と向き合っていたら、穏やかではない声が聞こえてきた。耳を澄ませるとそれはどうやら裏庭から聞こえてくるようで、忍び足で琥陽は近づく。
「ぼく、は……一人、だとっ」
「一人も二人も変わんねぇだろ。いいからほら、股開けって」
「……ぁっ」
「な、なにしてるの!?」
そっと覗き込み目に入った光景に、思わず琥陽は声を上げた。
木に両手をついている碧海に、それを支えている厳つい男。それから碧海の後ろで今にも自身のそれを取り出し入れようとしている男。
「なんだぁ? てめぇ、江部琥陽、か?」
「隣のクラスのアルファが何の用だ?」
隣のクラス、という事は、彼らは一組なのだろう。
学園長の息子で琥陽の名はそれなりに知れ渡っている。ただでさえ二クラスしかないのだ、著名な生徒の顔と名前を一致させるなどそう時間は掛からないだろう。
「ルール違反だよ」
「何が違反だってんだよ? ここはアルファとオメガが結ばれ子供を作る学校だろ? 誘われた、だからやった、それの何が違反だ?」
「性行為は同意の元だって言われてるでしょ!?」
「同意だよ、なぁ?」
「……っ」
「同意、には見えないんだけど?」
震える手で、肩に掛けられているだけのシャツで自分の身体を隠そうとする碧海。下は完全に脱がされているし、俯いて何も言わない姿は見ていて辛いものがある。
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