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「曇ってる、かな?」
「ん~……少し?」
すっかりいつもの調子を取り戻した碧海が、首を傾げる。
だがやはり自分では分からなくて、琥陽はがくりと肩を落とした。
「何があったの? 良かったら話、聞くよ?」
穏やかな声音でそう問われるが、自分の中ですら感情の整理ができていないのだ。こんなぐちゃぐちゃな感情、まだ言葉に乗せられない。
なのでん~と唸りながら空を見つめ、ふと思った事を聞いてみた。
「颯ちゃんって、来栖くんに俺の事話してる?」
「江部くんの事? 話してない日はないってくらい、江部くんの事ばっかりだけど」
「……そう、なんだ」
「うん。寝顔が可愛いとか、先生に当てられて慌てる様子が可愛かったとか、美味しそうに食べてる姿が可愛いとか……ふふ、可愛いばっかりだね」
颯珠の様子を思い出し、碧海がクスリと微笑む。
実際に颯珠の口から可愛いと聞いたことはあるが、まさか碧海にまで話しているとは思わなかった。第三者視点からのそんな話を聞き、琥陽の顔は一瞬で火照ってしまう。
「……ごめんね、後で注意しとく」
「いいよ。幸せそうな話聞くの、楽しいから」
からかうでもなく温かな目で見られ、居たたまれなくなって視線を落とす。
颯珠との出会いは最悪だった。最初の頃は仲良くなれるか自信がなくて、良く一朔の所に逃げていたものだ。
それがどんな心境の変化があったのか颯珠の態度が柔らかくなって、恋人の振りをするようになって。
もしかしたら本当に己の事が好きなのではと疑う事もあったが、そんなわけはないと否定して。
本当に好きなのだと、分かったのは最近だ。
冗談のように口から出る言葉も、態度も、熱のこもった視線の意味も。
本物だと知ると意識してしまう。一々『好き』の言葉が頭に浮かぶ。
(あ、そっか)
ふと、なぜ先ほど己が怒ったのか、得心がいった。
あの時、軽んじられたと思ったのだ。
自分にとってはファーストキスだったそれを颯珠に軽んじられ、傷ついた。
「江部くん?」
「え?」
「どうかした?」
「……なんでもないよ。そろそろ授業終わるだろうし、戻ろうか」
碧海を促し、教室へと足を向ける。
結局颯珠は授業に出たのだろうか? それとも琥陽と同様、面倒臭くなりサボってしまっただろうか?
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