4 颯珠の弱さ

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(サボってそうだな)  入学当初、颯珠はあまり授業に出なかった。人当たりは良かったがどこか壁があり、友達を作ろうともしなかった。  滅多なことで退学にならないため、最低限の単位さえ取得すれば良いと考えていたのだろう。  最初の一週間を丸々サボっていたので引きずり出し、罵詈雑言を浴びながら何とか授業を受けさせたものだ。  そんな颯珠が、気分を害したことを理由にサボらないはずがない。 「仲直り、ちゃんとしてね。皺寄せがこっちに来るの、嫌だから」 「だから、喧嘩じゃないよ」  碧海の言葉に苦い笑みを零しつつ、琥陽は颯珠の姿を探しながら校舎へと踏み入った。  気まずくなる、と思っていたのだが、意外なほど颯珠の態度は普通だった。  やはりサボっていた颯珠が帰ってきたのは放課後になってからで、何事もなかったかのように皆の前で好き好きアピールをして、寮に戻ってからも何ら態度に変化はなくからかわれ。 「琥陽」  沈んだ声で呼びかけられたのは、夜の九時を過ぎてから、つまりは身体が小さくなった後の事だった。 「今日は……小学生? オレの膝に乗る?」 「いや……」  断ろうとしたのだが、切なげな視線に折れ、琥陽はベッドで膝を叩いている颯珠の上に乗った。 「ごめんなさい」 「何に謝ってるの?」 「……分かんないけど、怒らせたから」  後ろから抱きしめながら、颯珠は親に叱られた子供のように「ごめんなさい」を繰り返す。  いつもの強気な態度が嘘みたいだ。  縮こまり、琥陽の言葉に怯えている。 「オレ、琥陽に嫌われたらやってけない。何度でも謝るから、オレが悪いから。だから嫌わないで」 「嫌わないよ……でも俺だって、傷つくことくらいあるよ」 「……傷ついた、の?」 「だって颯ちゃん、俺にとってのキスがどういう意味をするのか、分かってないみたいだったから」  いつもより甲高くなった声で、琥陽は震えている声に答えた。  颯珠は外でも寮でも自信たっぷりな態度だが、時々こうして、自信をなくす時がある。  琥陽の言葉に、態度に怯えて、嫌われたくないと嘆く。  それはまるで母親に嫌われまいと奮闘する子供のようだった。縋ってくる手をしっかりと掴み、琥陽は毎度の如く言葉を重ねる。 「俺、ファーストキスだったんだよ? 『ごめん』くらいは、欲しかったかな」 「……初めて、だったの?」 「そうだけど?」 「番とは?」 「それは……覚えてないんだよね。あの人と過ごした記憶って、曖昧だから……してない、って思ってるけど」 「そ、っか」  腕の力が強くなった。小学生の身体は小さくて、颯珠の腕の中にすっぽりと納まってしまう。
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