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(サボってそうだな)
入学当初、颯珠はあまり授業に出なかった。人当たりは良かったがどこか壁があり、友達を作ろうともしなかった。
滅多なことで退学にならないため、最低限の単位さえ取得すれば良いと考えていたのだろう。
最初の一週間を丸々サボっていたので引きずり出し、罵詈雑言を浴びながら何とか授業を受けさせたものだ。
そんな颯珠が、気分を害したことを理由にサボらないはずがない。
「仲直り、ちゃんとしてね。皺寄せがこっちに来るの、嫌だから」
「だから、喧嘩じゃないよ」
碧海の言葉に苦い笑みを零しつつ、琥陽は颯珠の姿を探しながら校舎へと踏み入った。
気まずくなる、と思っていたのだが、意外なほど颯珠の態度は普通だった。
やはりサボっていた颯珠が帰ってきたのは放課後になってからで、何事もなかったかのように皆の前で好き好きアピールをして、寮に戻ってからも何ら態度に変化はなくからかわれ。
「琥陽」
沈んだ声で呼びかけられたのは、夜の九時を過ぎてから、つまりは身体が小さくなった後の事だった。
「今日は……小学生? オレの膝に乗る?」
「いや……」
断ろうとしたのだが、切なげな視線に折れ、琥陽はベッドで膝を叩いている颯珠の上に乗った。
「ごめんなさい」
「何に謝ってるの?」
「……分かんないけど、怒らせたから」
後ろから抱きしめながら、颯珠は親に叱られた子供のように「ごめんなさい」を繰り返す。
いつもの強気な態度が嘘みたいだ。
縮こまり、琥陽の言葉に怯えている。
「オレ、琥陽に嫌われたらやってけない。何度でも謝るから、オレが悪いから。だから嫌わないで」
「嫌わないよ……でも俺だって、傷つくことくらいあるよ」
「……傷ついた、の?」
「だって颯ちゃん、俺にとってのキスがどういう意味をするのか、分かってないみたいだったから」
いつもより甲高くなった声で、琥陽は震えている声に答えた。
颯珠は外でも寮でも自信たっぷりな態度だが、時々こうして、自信をなくす時がある。
琥陽の言葉に、態度に怯えて、嫌われたくないと嘆く。
それはまるで母親に嫌われまいと奮闘する子供のようだった。縋ってくる手をしっかりと掴み、琥陽は毎度の如く言葉を重ねる。
「俺、ファーストキスだったんだよ? 『ごめん』くらいは、欲しかったかな」
「……初めて、だったの?」
「そうだけど?」
「番とは?」
「それは……覚えてないんだよね。あの人と過ごした記憶って、曖昧だから……してない、って思ってるけど」
「そ、っか」
腕の力が強くなった。小学生の身体は小さくて、颯珠の腕の中にすっぽりと納まってしまう。
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