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「嫌、だった?」
「え?」
「オレとのキス、嫌だった?」
「……嫌、では、なかったけど」
昼休みを思い出し首を傾げる。
いきなりで驚いたが、嫌ではなかった。
颯珠とのキスは一瞬で、感想を言えるほど長くはなくて。良く分からなくて虚空を見つめていると、身体をくるりと回転させられ、颯珠と向かい合わせで座らされた。
「キスってさ、オレも特別だと思ってるんだよね。恋人同士の特権、みたいな。そう思ってなければ今頃、オレは琥陽にキス、しまくってたと思うよ?」
「……同意のない行為は、校則で禁じられてるけど」
「実際はしてないでしょ? まぁ妄想ではしてきたけど」
「そ、想像してたの!?」
「当たり前でしょ? 好きな人とのそういう行為、想像しないなんてあり得ないよ」
唇を親指でツンツンといじられながら、琥陽は直球な言葉に慌てふためく。
嫌わない、の言葉に安心したのだろうか。調子を取り戻してきた颯珠にペースを乱されつつ、琥陽はやめてもらおうと腕を掴んだ。
「嫌じゃなかったなら、さ」
「?」
「もう一回、しても良い? やり直させてよ」
指が首の後ろに回り、顔を上げさせられる。
穏やかでいながら熱を秘めている瞳は、今にもその熱が揺らいでしまいそうだった。
それでも熱を抑え反応を伺っている颯珠に、琥陽は懸命に作った笑みを浮かべる。
「ダメに決まってるでしょ? 本当の恋人になる事なんて、ないんだから――むっ」
はっきりと拒むと、口のすれすれの場所に唇を落とされた。
「分かった。いつもの姿に戻ってから、ね」
「そ、そういう事じゃなくて!」
「琥陽の唇、予約しとくから。誰にも奪われたらダメだからね」
「だ、だから俺は、番がいるって……!」
「そんな事実、いつか消し去ってオレのものにするから。覚悟、しときなよ」
名残惜しそうに唇を見つめていた颯珠は、暫くすると漸く離してくれた。
だが離れても、琥陽の身体は動いてくれそうになくて。
「~~~~っ」
恨みがましく見つめたら、何を思ったのか今度は瞼に唇を落とされた。
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