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ラブラブなカップルとして知られている、琥陽と颯珠。
だがその実付き合ってはおらず、クラスメイトや学校で付き合っている振りをして過ごしていた。そんな生活を送ろうと決めたのは、この学校の特殊性が原因だ。
ここの生徒にはアルファとオメガしかいない。というより、その二つの性しか入学できない。
男と女以外の第二の性であるアルファ、ベータ、オメガは、思春期に血液検査をすることで判断される。そして今注目されているのが、オメガの妊孕性であった。
男女とも関係なしに子供が産めるオメガの身体。だが長年、男のオメガは差別され続けてきた。
エリートの多いアルファと平々凡々であるベータや生殖意識の高いオメガの女、それから少数の男のオメガしか子供を作って来なかったため、近年出生率が低迷した。生まれる子供に男が多くなり、女の姿を街中で見かけなくなった昨今、このままでは国の未来が危ういと出した政策の一つがこの学園だ。
入学条件はアルファかオメガである事のみ。試験はなく、学費も免除。全寮制で、寮ではアルファとオメガがペアで生活し、席もペアで隣同士。
そしてそのペアは、一度は付き合わなくてはならない、というのが暗黙の了解としてあった。
もちろん付き合わない事もある。寮の相部屋でセフレという人たちだっているし、貧乏という理由から入学した人たちは、卒業まで誰とも付き合わないと決めている人も多い。
だが共に過ごす時間が長くなると絆されるのか、この時期になると多くの人がカップルになっていた。
恋人がいないと良くも悪くも目立ってしまう。そして目立つと同時に、同じような恋人のいない人やセフレを多く持つ人からアプローチされる事が増えるのだ。
なので、互いに恋人を作る気がないという意見が一致し、颯珠と琥陽は外ではこうして恋人の振りをするようになった。
「やっと来たか。遅かったな」
「聞いてください先生! 琥陽が、浮気してて……」
「……江部、恋人を泣かせちゃダメだぞ。たとえ血迷ったとしてもすぐに謝るんだ。大丈夫、誠意を示せば許してくれるさ」
「浮気なんてしてません! ちょっと荷物運ぶのを手伝ってただけです!」
「でも琥陽って誰にでも愛想いいから、ボク、心配で……いつ、他の人の所にいっちゃうのかってっ!」
颯珠が顔を両手で覆い、切羽詰まったような声を上げる。だがその口は笑っており、指の間の隙間から見上げた瞳は泣いても悲しそうでもなかった。
「確かに江部は交友広いし、人懐こいからな。心配にもなると思うが……誠実だろ? 誰かとどうのって話は聞いたことないし、卯田に心底惚れてる事は明らかだから安心しろって」
な? と颯珠の肩に手を置きながら励ます先生の言葉に、琥陽は「ひっ」と声を上げそうになった。
惚れてる、なんて恥ずかしい。恋人の振りをして数か月が経つが、その手の言葉だとか行動だとかに、未だに琥陽は慣れていない。
だがそんな恥ずかしさを逃さないのが、颯珠という男だ。
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