5 気持ちの矛先は

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 はぁ、と大きなため息を吐きながら、琥陽は廊下の窓から腕を投げ出した。  だらりとだらしなく背を曲げて、運動場でサッカーに汗を流す生徒を見つめる。 「今度は何があった?」  そんな琥陽の様子を見て、一朔が手に持っているコーヒー牛乳を飲み干しながら琥陽に問うた。  朝から颯珠に対し妙によそよそしい態度を取っていたので、その悩みの種が颯珠である事など丸わかりなのだろう。  名前は出てないが共通の人物が頭に浮かび、琥陽は再び大きく息を吐いた。 「昨日の事、妙に意識しちゃって……」 「ああ、堂々とやらかしてたやつな。普段からいちゃついてるから、あんまり騒ぎにはなってなかったけど」 「……でも俺には、一大イベントだったから」  普段から、颯珠の距離は近い。  誰が見てても見てなくても近くにいて、気が付けば手を握られていたりとボディタッチも激しい。  そして触られる度に昨日のキスを思い出してしまい、よそよそしくなってしまうのだ。  颯珠も琥陽が何を思ってそんな態度になってしまうか分かっているらしく余計に触れてこようとするし、そうなると颯珠を避けてしまう。  昼休みも巻くのが大変だったし、これからを思うと気が滅入ってしまう。 「琥陽……ちょっと確認して良いか?」 「何?」 「お前は卯田の事、何とも思ってないんだよな?」 「そうだけど……」 「ならどうしてそんなに、意識してんだ? キスの前から、からかわれる度に赤くなってたよな?」 「……そりゃ、誰だってあんな風に言われたりされたりしたら、赤くなるでしょ」 「にしては別の感情も混じってるように見えるんだよな~」 「……何が言いたいの?」  含むような言い方をされ、琥陽は背筋を正す。  それを受け一朔も琥陽に向き合うと、スッと真っ直ぐに琥陽を見つめた。 「好きになってないか? 卯田の事」  期待交じりにそう言われ、心臓の音が大きく響いた。  けれどそれを誤魔化すように一度瞳を伏せると、ぐっと息を詰め、苦笑交じりに「何言ってるの?」と冗談で終わらせようとする。 「颯ちゃんは恋人の振りをしている、ただのルームメイトだよ。それ以上でも以下でもない」 「ならどうして返事をしないんだ? なんでいつまで経っても、はっきりと振らない?」 「それは……」  確かに、颯珠へきっぱりとした態度を取った事はないかもしれない。  付き合う気はないと言ってきたが、颯珠はいつか琥陽が颯珠の方を向くと確信しているようだった。  それは琥陽が颯珠の行動の一つ一つに一々顔を赤らめていたからか。  隙を見せて、チャンスはあると思わせていたからか。
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