5 気持ちの矛先は

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「お前の卯田と付き合えない理由は一つだ。番がいるから、それだけだろ? 卯田を好きか嫌いか、付き合えるか付き合えないかで考えたこと、あるか?」 「…………」 「恋愛感情で見れるかどうか、そこから考えてみても良いんじゃねぇの?」 「でも……考えたところで……」 「はっきりと言わせてもらうが、番の事はそろそろ諦めろ。今まで迎えに来なかった、それが答えだろ?」  胸に燻って考えないようにしていた事を言われ、キュッと胸が苦しくなった。  探しても見つからず、会いにも来てくれない。  琥陽は番の事を覚えていないが、向こうは覚えているはずだ。  朧げながらも、後ろから掛けられた声の雰囲気だけは琥陽の中にも残っていた。  琥陽が探すより、姿を知っているはずの相手が探す方が簡単に決まっている。  だと言うのに会いに来てくれないのは、自分の事を汚点として避けているのか、なかったことにしているのか。  何れにしても、琥陽を本当の意味での番にしてくれることなどないに等しい。 「卯田はお前に番がいても気にしない貴重な奴だぜ? そこんとこを良く考えて、答えを出してみても良いだろ」  横に回った一朔が、勢いをつけて背中を叩く。それによろけると、「時間はあんだ、とことん悩んで答えを出せ」とニッと歯を見せ元気づけた。  それを見て琥陽は淡く微笑むと、再び運動場の方へ目を向けた。 「恋愛の好き、か~」  放課後になると、何となく一朔とも颯珠とも一緒にいるのが気まずくて、琥陽は一人ぶらぶらと校内をうろついていた。  番を抜きにして、と言われても、どう考えれば良いのか分からない。  友達の好きと恋愛の好きは違う、それは分かる。だがその好きの見分け方が分からないという、恋愛初心者ならではの悩みに至っていた。  それにやはり、番の存在は気がかりだ。自分の存在を無視していたとしても、番と繋がるのが正しい道。それ以外の邪道を行く勇気を、琥陽はまだ抱けなかった。 「あ」  そんな事を考えながらあてもなく足を進めていたら、気が付けば昨日と同じ場所にいた。  そしてそこは碧海の定位置なのか、木陰に座りぼんやりと空を見上げている碧海の姿を見つけ、琥陽はそっと近づいてみた。 「江部くん?」  碧海に影を落とした所で漸く琥陽の存在に気付いたのか、碧海はハッと目を瞬かせる。 「隣、いい?」  そう尋ねるとスペースをあけられたので、琥陽はそこに腰を落とした。 「よくここ、来るの?」 「うん。あまり人が来ないから、一人になりたい時に」 「……俺、いても大丈夫?」 「いいよ、江部くんなら。知らない相手でもないし」  教室での碧海は、どこか凛としていて澄んだ空気が漂っているようだった。穏やかで目立つ言動をしていないにも関わらず妙に目がいって、いつの間にか注目を集めている。  だが今は頼りなく膝を曲げそこに額を付けてごもごもと籠った声を出しており、淀んだ空気が漂っていた。
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