1 そんな感じの学園生活です

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「本当? 琥陽、ボクの事好き?」  俯きながら、颯珠が琥陽の手を取った。不安から気持ちを確かめたい、という風を装っているが、その本心を知っている琥陽は必死に難を逃れようと言葉を紡ぐ。 「せ、先生の前でそんな……」 「だって、二人きりの時にも言ってくれないじゃん」 「い、言う! 二人になった時にちゃんと言うから、その、今は勘弁して!」  いっぱいいっぱいになりそう叫ぶと、颯珠はそっと背伸びして琥陽の耳に口を近づけた。 「約束、ね」  そう囁きすぐに離れていく。 「仲直り、できたか?」 「はい、先生のおかげです」  口は感じの良い笑みを浮かべておきながら、瞳は意地悪くこちらの様子を伺っている颯珠は、相変わらず器用な男だ。  そして相変わらず、質が悪い。  颯珠は琥陽の前では素でいるが、外だと猫を被っている。  理由は「オメガっぽい方が都合が良いから」だそうだ。  確かにいつもの感じで学校生活を送ると、人と頻繁にいがみ合いぶつかってそうである。  その性格を隠すのは良い。良い、が、隠すのならちゃんと全部隠してほしい。  いつもの猫を被ったキャラには似合わない意地の悪そうな笑みを見つけてしまった人には、どう説明するのやら。  そんなリスクを負ってまでからかってくるのは、ぜひやめてほしいのだ。  琥陽のそんな思いは颯珠に届くことはなく、先生に言われた通りに資料室にてプリントをまとめてホッチキスで留めていく。  他の仕事があるから、と先生は出ていったのでこの部屋には今颯珠と琥陽の二人のみだ。パイプ椅子をなぜか隣に置いて、並んで黙々と作業をする。 「で?」 「……で?」 「今、二人きりだけど?」  隣からパチン、と音を鳴らしながら、颯珠が流し目を送ってきた。 「二人きり、だね」 「約束、破るの?」 「そ、そもそも今恋人じゃないし!」 「二人の時、って言ったのは琥陽だけど?」 「……っ」  颯珠がパイプ椅子を移動し、距離を詰めてきた。立っていると遠く感じる顔が近くに迫って、「早く」と琥陽の言葉を促す。  顔を逸らし、視線だけでちらりと颯珠を確認する。「ん?」と笑みを浮かべながら待っている颯珠を見て、諦めた琥陽は颯珠の耳に口を寄せた。 「好き、だよ」  そう言ってすぐに離れようとしたけれど、颯珠の手が首に回って抱き着いてきたためそのままじっと琥陽は固まる。 「オレも、あんたが好きだよ」  やがてぼそりと呟いた後、颯珠は離れていった。  何だか赤い耳に、右手を口に持ってきた颯珠は「やっぱり……可愛いな」と呟いたのだが琥陽の耳には全く届かず、恥ずかしさを逃すために琥陽は黙々と作業し続けた。
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