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2 バレてました
朝の登校は手を繋いで、というのが偽の恋人としての二人の中のルールだ。
毎朝恥ずかしがる琥陽の手を無理やり恋人つなぎにし、どこか嬉しそうに頬を綻ばせ笑う颯珠を横に、今日も琥陽は学校の門をくぐる。
「あ、あの……っ」
そこで掛けられた声に振り返った。
靴箱で靴を履き替え、後ろに立つのは小柄な少年だ。
「これ、受け取ってくれますか……!」
手を震わせながら、隣のクラスであろう少年が手紙を差し出す。
それを受取ろうとして、かけられた力に自然と手が止まった。
「琥陽は、ボクのものだよ?」
同じく靴を履き替えた颯珠が琥陽の手を阻止し、少年を牽制する。
「あ、あの、気持ちを知ってくれるだけでも良いので……!」
「ダメ、そんなの知ったら琥陽は気にしちゃう。琥陽が僕以外の人に気持ちを砕くなんて……考えたくもない。琥陽は誰にも渡さないから」
そう言って、横から強く抱きしめてくる。
「ごめんね、そういう事だから」
余裕ぶり、そんな颯珠の頭を撫でながらぺこりと頭を下げ、琥陽はそのまま歩き出した。
縋りつき今にも泣きだしそうな風を装っている颯珠は、覆った手の下でいやにぎらつく目を琥陽へ向ける。
「琥陽、そこの道を逸れて」
「……うん」
朝からくっついている二人に集まった注目からか、小声で颯珠が指示を出す。
それに逆らえるはずもなく。
琥陽は頷き、人通りの少ない階段下へ向かった。
「何で受け取ろうとしたの?」
「……咄嗟に」
「さっきだけじゃないよね? オレがいない時はプレゼントだとかお菓子だとか、隠れて受け取ってるよね? バレてないとでも思ってたの?」
「……だって、気持ちを無視するわけにも……」
「琥陽はオレの恋人だって自覚、あるの?」
「それは偽――」
思い切り睨みつけられ、続きが言えず閉口する。
たじろぎ俯く琥陽に大きなため息を吐くと、颯珠は琥陽を壁に押し付け、両手で挟んだ。
「たとえ偽物でも、誰かに甘い顔をしないで、つけ入る隙を作らないで。オレの恋人として、オレだけの琥陽でいる努力を怠らないでよ」
鋭い目を一旦引っ込め、琥陽の手を取ったかと思うとチュッとわざとらしく音を立て、そこにキスを送る。
一連の動作に固まった琥陽に良い笑顔を見せると、「罰として」と颯珠はいやらしく口角を上げた。
「今日一日、恥ずかしい思いをしてもらうから」
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