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兵士に刺されて死んだ後。気づけばおれは、森の中で黄色い目に見下ろされていた。
「ドルフ……なんでここに?」
「ヌスンダ」
ドルフはあっさり答えた。村を離れた後も、ドルフは近くでようすを伺っていた。そして隙を見て、放置されていたおれの死体を獣の死骸とすり替えたのだという。
「だけど、どうして。誰がおれを……」
蘇生したばかりの体は力が入らず、酷いめまいがする。うずくまって呻くおれの前にドルフはひざまずき、そっとささやいた。『聖なる四文字の言葉』。
驚きのあまり、めまいは一瞬で飛び去った。
「お前、知っていたのか」
ドルフが満足そうにうなずく。誰にも聞こえないようにしていたあの『言葉』に、すぐそばに控えていたドルフだけは気づいたのだ。見習い時代のおれのように。ふいに、皮肉な笑いが込み上げてきた。
「なんだ、本当に何でもありじゃないか……。どうだドルフ、神様の力を使った気分は?」
「チガウ」
「違うって何だよ。言っておくが、その力は安易に使っちゃ駄目だぞ。いまさらだけど」
「チガウ」
ドルフが手を伸ばしてくる、振り払おうとして、逆に腕をつかまれた。
「おい……」
ドルフはおれの手を引っ張ると、自身の顔にあてた。ゴブリンの皮膚は硬く、ゴワゴワした体毛が手のひらを刺す。ドルフは温かかった。その熱が、死んで冷たくなっていたおれの体にしみ込んでくる。
「カミサマいる。シッテル。ね?」
おれの手の隙間からもごもごと言う。知ってるって何をだ。
ドルフは知っていると言うのだ。なら知っているのだろう。
棺桶に土がかけられ始めると、おれは立ち上がり尻をはたいた。ドルフが黄色の目で見上げる。
「モドラない、イイか?」
「ああ」
戻れば、蘇生した理由を説明しなければならない。それに、おれはずっと窮屈な教会暮らしだった。そろそろ、羽を伸ばしてもいいんじゃないかと思うのだ。
「でもまずは、この山を抜けられるかだよなあ。ドルフ、どう思う?」
おれは戦力にならない自信がある。振り返って問うと、ドルフは重々しくうなずいた。
「ダイジョブ」
「うわあ、頼もしい」
立ち場がひっくり返ってしまったが、まあいい。おれはドルフについて歩き出した。
旅立ちにぴったりの、爽やかで気持ちの良い空だった。
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