神父とゴブリン

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 マダラヤマドクバチに殺されてから半年後。旅人サモンが、今度は自分の足で教会にやってきた。(あきな)いの旅を続けた結果、とうとう大きなチャンスをつかんだらしい。 「それもこれも、神父様のおかげです!」  精悍さを増した笑顔を見て、こちらも嬉しくなった。一度蘇生を経験した旅人の末路は三つに分類できる。死の恐怖に耐えられず旅をやめる者。恐怖に麻痺して破れかぶれになる者。そして、恐怖を克服し真の英雄となる者。  早計かもしれないが、サモンは最後の道を歩み始めたようだ。彼のこれまでの冒険談を聞いていると、背後の扉が開いた。 「テツダイ?」 「いや、大丈夫だ」  フードの人影はうなずき、そのまま祭壇の周りを拭き始める。 「人を雇ったんですか?」 「いやまあ。雇ったというか、居つかれたというか……」 「ああ、『奉仕の徒』ですか。ご人徳ですね!」  サモンはしきりに感心している。勝手に納得してくれたので、おれも訂正はしない。 「神父様、今日はありがとうございました。これは教会への寄付です」  去り際に、サモンは金貨の入った袋を差し出した。 「こんなに? いいのですか」 「もちろんです。これから入り用になるとも限りませんから。……今、南の方は少し危ないんです。隣国から侵攻を受けているらしい。皆さんも気をつけてください」  サモンは「情報が入ったらお知らせします」と言い、次の街に向けて旅立っていった。本当に気のいい青年である。見送りが済むと、おれはフードの人影に向き直った。 「ドルフ、この金は寝室にしまっておいてくれ」 「シンシツ、わかた」  ローブの裾から太い腕がにゅっと出て、重い袋を軽々と受け取る。 「お菓子ももらったよ。お茶にするか」 「まだ、ソウジ」 「昨日もしてたじゃないか」  そう言うと、黄色の目に睨まれた。やれやれ。なんでまた、居候のゴブリンに叱られなきゃならんのだ。
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