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二度あることは三度あってたまるか/テーマ:月夜の遭遇
悪魔や天使は物語の中だけの存在だと思っていた。
もしかしたらいたのかもしれない、そんな「かもしれない」を信じたりもしない。
私は自分が見たものだけを信じると決めていたのに、今目の前にある現実は自身の目すらも疑いたくなるもので。
尖った耳に鋭い牙。
極めつけは黒い羽って、想像が具現化したような悪魔。
まずは一旦落ち着こう。
私は毎夜の楽しみ、月夜のステージでワルツという名の散歩をしていた。
大人とはいえ夜道に女一人は危ないことは自覚してるけど、唯一の楽しみである習慣は簡単にやめられない。
「だから悪魔なんかに遭遇しちゃったのかな……」
「何をさっきからブツブツ言ってるんだ」
「話しかけないで。今私は自分の習慣を後悔してるんだから」
声までかけられたらいよいよ現実なんだと受け入れなくてはいけない状況。
一体何をどうしたら、月夜に悪魔と遭遇なんて自体になるのか。
これがオカルト好きな人なら、瞳をキラキラ輝かせて目の前の悪魔にインタビューでもしだしそう。
「でも、オカルト好きは幽霊に興味はあっても悪魔には興味ないかな」
「何時まで私を無視するつもりだ」
悪魔は腕を組み苛立った様子でこちらを見てるけど、そもそもこの悪魔は何故私の目の前に突然現れたんだろう。
こっちは習慣の夜散歩を楽しんでいただけなのに。
「悪魔が私に何か御用で?」
「冷静だな」
「頭で理解して無理矢理納得させたんで」
親指を立ててグッとポーズをとると、悪魔はクツクツと喉を鳴らしながら笑う。
用事なら早急に終わらせて帰ってもらおうと再度尋ねれば、人差し指が私を指し「お前を貰いに来た」なんてとんでもないことを言い出す。
そもそも私は物ではないと抗議すれば、私を貰うのは契約だと悪魔は言う。
話が全く見えてこず首を傾げる私に、悪魔は昔交わしたという契約の話を語り始めた。
簡単に纏めると、私の遥か昔の先祖が悪魔と契約をし、その対価に自分の子孫を捧げた。
それも、何代目の祖先と適当な数字を言ったみたいだけど、その適当な数字が私に当てはまったらしい。
「勝手にそんなこと決めないでよ!」
「知らん。そんなことは先祖に言え」
「その先祖が遥か昔にいないんだっての」
なんで先祖の契約の対価を何代も先の子孫が支払わなければならないのか。
こんな契約不成立だとその場から去ろうとすると、首がグッと締り後ろに引かれる。
自分の首を見ると首輪がついております、鎖の先は悪魔の手に握られていた。
「主従関係の証明だな。首輪も鎖も契約成立の証だ」
「私はペットじゃないんだから。こんな首輪外してやる」
「キャンキャン吠えるな。それと、悪魔との契約は絶対だ。その首輪を外すことは出来んぞ」
悪魔の言う通り、首輪はピッタリハマって隙間すらあかない。
このままでは本当に私は悪魔の所有物になってしまう。
「あ、そっか。私も契約すればいいんだ」
「は?」
私の言葉に間抜けな声を漏らす悪魔だけど、私との契約も可能であることに頷いた。
それなら、私はまた更に先の子孫にバトンタッチすればいいだけ。
「よくもそんな事が思いつくな。私が契約を交わさないことも可能なんだぞ」
「えー、それは困る。だから契約して」
「なんて自分勝手な人間だ……」
悪魔は呆れながらも面白がって契約してくれた。
無事開放された私は、適当に言った何代目かの子孫の事を気にする。
なんてことはなく「悪魔って本当にいたんだなー」と既に他人事のように思いながら月夜のステージを歩く。
悪魔と遭遇なんてレアな体験をしたなと思いながらも、私は夜の散歩を続けている。
あんな体験は一度で十分だし、そんなにヒョイヒョイ現れるものではないと思うから。
なんて思っていたのに、またも私は非現実的な状況に陥る。
「お前を貰いに来た」
最近聞いたばかりのセリフ。
尖った耳に牙、黒い翼はデジャブ。
この前の悪魔とは違う悪魔が現れた。
「先祖、アンタいい加減にしろよ」
この前の悪魔と同じく契約したけど、もしかしてこれってやってること先祖と変わらないのではないかと思ったが「まあいっか」で全てを片付けた。
でも、夜の散歩はやめたほうがいいかな。
二度あることは三度あるともいうし、別の意味で身の危険がある以上は「悪魔お断り」の札をしばらく下げて散歩をしようと決めた。
《完》
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