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欲張りに復讐を/テーマ:あなたに会いたい
私は幼い頃から何でも与えられ、欲しい物が手に入らないことなどなかった。
学園に行けば周りが私を褒め称え、誰もが私のいいなり。
だったはずで、それは今日だって変わらなかった。
夜に知らされた両親の死を聞くまでは。
数日後に葬儀が行われ、私は叔父様の家に引き取られることになった。
元々私の屋敷に居た執事やメイドはクビにされ、家の屋敷より何倍も小さな屋敷に連れられた私に待っていたのは、今までとは全く違う生活。
「何故、執事やメイドがこんなに少ないのよ」
「この屋敷は、必要最低限の人数しか雇っていないんだよ。それで不自由しないからね」
叔父様の言葉に私は腹を立てた。
不自由しないわけがない。
こんな少人数、それも年配の者ばかり雇ってなんの意味があるのか。
私の屋敷に居た使用人達を雇うように話しても、叔父様は首を横に振るだけ。
部屋も小さく窮屈で、家具も全然可愛くない。
一人の執事に買い直すように言っても「まだまだこちらの家具は使う事ができますので」と私に歯向かってきた。
どれだけ声を上げようと同じ言葉を口にするこの執事をクビにするよう叔父様に抗議しても聞いてもらえず、部屋に戻ることしかできなかった。
お父様とお母様がいた頃は、何でも手に入っていた物が急に無くなってしまった怒りをどこにぶつければいいのかわからずにいた私に、更なる不幸が降りかかる。
学園の、皆の反応が変わったこと。
今まで褒め称えチヤホヤしてきた人達が、私に屈辱的な言葉を囁いていた。
「両親が無くなってしまった落ちこぼれ貴族になったそうよ」
「これで気を使う必要もなくなったわね」
陰口を叩く貴族をキッと睨み付ければ「落ちこぼれがこっち見てるわ」とクスクス笑う。
何故私がこんな思いをしなくてはならないのか。
数日前までは輝いていた日常が、今の私の手にはなくなっていた。
これも全ては両親が亡くなってから。
元の生活を取り戻すには両親がいなくてはいけないのだと気づいた瞬間、前にクラスの令嬢が話していた黒魔道士について思い出す。
平民が暮らす場所から少し離れた森の中に怪しい魔術を使う者が暮らしており、黒魔道士ではないかと平民や貴族の間で話題になっていた噂話。
当時はくだらないと思っていたけど、その話が本当なら両親を生き返らせる事も出来るかもしれない。
私は迎えに来る車より早く学園を出ると、平民街へ向かう。
ハンカチで鼻と口を押さえながら歩いていれば、沢山の視線が向けられ気分が悪い。
平民如きが私を睨むなんて。
早くこの場を離れるべく平民街を抜けた先の無理へと足を進める。
草木で制服はボロボロになっていくけど、こんな物買い替えればいいだけ。
それよりも今は、噂が本当であるかが重要。
黒魔道士がいなければ、私はこのまま落ちこぼれ貴族として周りから笑いものにされる。
森の中のどこにあるかもわからない黒魔道士の家を探し続け、見つかったのは小さな小屋。
その場所だけ木々が生い茂っていて暗く、いかにもな雰囲気を纏っている。
扉の前に立ちノックをするが返事はなく、思い切り何度も叩き続けて黒魔道士を呼べばギイーっという音と共に扉が開き、隙間から伸ばされた手が私の腕を掴み中へと引っ張りこまれた。
勢い良く背中に床が打つかると、私の上に誰かが乗っている。
暗くて重さや感覚しか感じることが出来ないけど、この状況で私が発す言葉は一つ。
「誰の許可を得て私の上に乗っているのよ」
凛とした声で一喝すれば突然明るくなる。
私の上に乗っているのは、薄汚いマントを纏った男。
明るくなったのは、男が手にしているランプのお陰のようだ。
「お前のように、最近貴族が面白半分で来るから困っている。女が一人で来るのは初めてだがな」
「私は面白半分で来たんじゃない。黒魔道士に両親を生き返らせてほしくてきたのよ」
これには私の人生がかかってるっていうのに、男は溜息を吐くと「くだらねえ」と吐き捨て私の上から退く。
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