だって退屈なんだもの。

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だって退屈なんだもの。

5月1日。つい数週間前まで薄紅色一色だった桜並木はチラホラと緑が見え始め、私立星振高校の生徒達を毎朝のように出迎えている。 そんな中校舎1階にある1年2組の教室では、難解な数学の授業が繰り広げられていた。 高校に進学し新生活が始まった目新しさは最早完全に薄まっており、そも授業自体の退屈さというのはどの学年でも変わらないものであり、故に生徒の3分の1は授業を聞かずに虚空を見つめながら強烈な眠気に逆らうことに専念していた。 並乃崇人もその1人で、彼は専ら空を揺蕩う雲を見つめるのがお気に入りであった。様々な形へ変化する雲は見つめていて案外と面白いものである。彼の豊かな想像力さえあれば、そこにどんな物でも投影することが出来た。 「で、あるからして───。」 今年で数学教師経験歴53年にもなる岡田先生が口にする数列は、彼の貫禄のある風貌も相まって魔術の呪文のように聞こえる。そしてそれらは生徒らの右の耳から脳に入り、程なくして左の耳から出ていくのであった。 ぽんぽん、と唐突に崇人の肩が叩かれる。 「おい、崇人。スマホの画面、ついちゃってるぞ。」 隣の席の男子が話しかけてきた。彼の指さす先には、崇人の机に掛かった鞄があり、そのかぶせ部分から淡く赤い光が漏れていたのだ。崇人は「あ。」と声を漏らして鞄の中へ素早く手を突っ込む。そして誰にも聞こえないように気をつけながら 「まだ寝ていてくれ。」と呟いた。 赤い光は再び目を閉じ、眠りについた。
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