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「前に話したことあるかもしれないけどうちの家系はさ、先祖代々医者家系なんだよねー、だからさ大昔のコミュニティでは…それを村と呼ぶのか集落と呼ぶのかはよく分からないけれど、まあとにかく割と運営側というか責任者的ポジをやってたみたいでね。
村長とかのマジのトップじゃないっぽいんだけど、なんていうか理事会の一人?みたいな感じ?で、とある地域で医者をやりながら平和に暮らしていたんだってさ」
心の中は栄治へのイライラで怒りMAXであっても、それとは別に冷静に仁見先生の話へ犬彦は耳を傾ける。
一度依頼を引き受けることを了承したのであれば、それは必ず遂行されなければならない、情報収集からすべてはスタートする。
「この辺のバックグラウンドに関しての情報が曖昧なのは、私もその辺の先祖の事情はよく知らなくって…っていうかまったく興味がなくって、全部うちのジイさんから聞いた受け売りに基づいているからなんだ。
つーかあのジジイに今回の件は私も押し付けられててさー困ってるんだよねー、どうせお前が一族の中で一番暇だろうから最後まで面倒見とけってうるさくって。
いちおうジジイはうちの院長だから無視もできなくってさ、毎週顔合わせるたびにあの件はどうなったってガミガミ聞いてきてマジうざいんだよ」
「早く、要件の本題に進んでください」
問題の話が脱線し、身内の愚痴へと流れていきそうな気配を察して、犬彦は口を挟み軌道修正を仁見先生へ促す。
引き受けたからには仁見先生たっての個人的な依頼は必ず遂行するが、犬彦には本業…赤間部長としての日常業務も控えている。
もちろん本業をないがしろにすることはできないので、ちゃっちゃと仁見先生の要件を聞いて解決までのステップを組み立てながら、さっさと本社に戻って今日の赤間部長としての業務を再開したいのである。
犬彦からピシャリと愚痴話を止められて、仁見先生は一瞬、なんだよ~もお~と言いたげな顔をしたけれど、さくさくと本題に入ってくれた。
「まっ、結論から言うとね、犬彦くんなら楽勝の超カンタンなお仕事だよ、ちょっとうちのいわくつきの土地の様子を見てきて欲しいんだよね。
元気にしてるかどうかってさ」
「元気にしてるかどうか…?」
奇妙な言い方だ。
話のまとまり方の悪い仁見先生のここまでの説明から、今回自分に依頼したい案件の内容が土地に絡むことがまずは理解できた。
大昔から医者の一族であり、つまりは大金持ちの仁見先生の家系はもちろん大地主のような立場でもあるだろうことは概ね推測できる。
そして、土地を持つ一族というのは大抵それ系の問題で揉めることも常識として理解できる、利権や大金が絡むものにトラブルが付きまとうのは当たり前のことだ、問題が何も起きない方が奇妙である。
しかし今回の仁見先生の言い方は、何か引っかかるものがある。
土地が元気にしているかどうかとは、どういう意味だ…。
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