はじまり(犬彦の場合)

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 所有者に直接的な用途がないのであれば、土地をそのままほったらかしにしていたのでは金銭面でマイナスにしかならない。  仁見先生の言うように、諸事情から売りに出すことができないのであれば、空地は貸し出してしまうのがベターであるだろう。  「んで、本家の方にそういう細かいことに詳しいのがいてね、彼がそういう権利系を管理してくれてんだけどさ、ちょうどその土地一帯辺りが当時大規模な開発エリアにかすってたみたいで、まとめてそこ担当の不動産会社に借地したっていう経緯がある。  その件に関しては一族みんな了解済みだよ、いい着地点だったと思う、まあプラスになる程度の賃料は定期的に入ってくるし、なにより土地の管理とかさめんどいことを不動産会社に丸投げできるし。  不動産会社の方もね、どうしてもまとまった土地が必要だったみたいだから、買取ができなくても借地としてエリアを確保できてホッとしたようだね。  こちらからの土地を貸し出す上での譲ることのできない条件も、あっさり飲んでくれたみたいだし」  「それが、いわくつきの土地の所以ですか」  「うん、すべて一帯の土地を貸し出すのはいい、好きなように開発してくれて構わない、ただし…ある一部の区画、それはほんの小さい場所だけれど、そこだけは禁足地として何人たりとも立ち入らないようにと約束させた。  そこは…先祖代々の墓標なのだ、ということにしてね。  むこうも慣れたもので、深く訳を聞くこともなくその条件で契約書にサインしたんだって。  東盛不動産グループ、さすがでかい会社だけあって顧客から奇妙なことを言われても動じないもんだ」  「東盛不動産グループ…」  仁見先生の言葉を、嚙みしめるように犬彦はその会社名をつぶやく。  それは日本人なら知らない者はいないと言えるほどの巨大企業の名前。  都市開発に特化しており、あらゆる不動産管理に着手しているその大企業は、犬彦の勤め先である貿易会社とも末端では取引があった。  「もしかして仁見先生の仰る借地とは、東京ウエストガイアパークなのでは?」  「さすがだねぇ犬彦くん、そうそう、まさにその東京ウエストガイアパーク…みんな略してガイパって呼んでるんだっけ、そいつが建ってる土地のごく一部がうちの一族の所有する土地。  私は行ったことないから知らないけど、噂じゃ相当でかいショッピングモールらしいね? 映画館とかもあるんでしょー、まあその建物のね、公園だか駐輪場だか忘れたけど、そういう一部になってるらしいよ、うちの土地」  「東京ウエストガイアパークを管理運営しているのが東盛不動産です。  駅から少し離れたあたりの好物件の土地をまとめて買い上げ、自社の管理する大きなショッピングセンターを作り、周囲の地価を上げ住宅を売りさばく…そういった属性の企業ですから、仁見先生のお話を拝聴した上で一番に該当したのがそのエリアでした。  それで、現在では東盛不動産とトラブルが起きているということでしょうか?」  
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