はじまり(江蓮の場合)

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はじまり(江蓮の場合)

 いま、俺はめっちゃドキドキしている。  って言っても、嫌なドキドキじゃない、でも楽しいドキドキってでもなく…なんて言ったらいいかな、うーん、そわそわに近いかんじ?  こんなドキドキは、あれ以来だ。  残り千円しかないのに、天音が欲しがっているキャラを絶対にガチャで引かなくてはならないと、ガチャの前で隣から天音に圧をかけられていた…あのときの緊張のドキドキ感に似ている気がする、…いやちがうか。  まあいいや、とにかく俺はドキドキしながら犬彦さんが帰ってくるのを待っている。  今夜、俺は大事なことを犬彦さんに話さなくっちゃならないのだ。  たぶん大丈夫だとは思うけど、少しでも犬彦さんが気持ちよく俺の話を聞いてくれるように…まちがっても犬彦さんが不機嫌モードになって、俺のおねがいを却下しないように、ちゃーーんと犬彦さんが好きそうな晩ごはんを用意してスタンバイ中なのだ!  鮭のホイル焼き、だし巻き卵、ほうれん草の白あえ(全部作るのたいへんだったぞ!)奈良漬けに冷たい缶ビールも用意した!完璧だ!  (あんまり食に興味がない犬彦さんだけど、わりと和食系が好きだ)  そんでもってお風呂もばっちり準備できている! さあ帰ってくるのだ犬彦さん、こちらの迎撃準備は完了している、絶対に負けないぞ!(?)  ドキドキそわそわしながら、意味もなくリビングをうろうろする俺。  今か今かと犬彦さんの帰りを待つ現在の気分は、猟銃をかまえながら巣穴の前で、獲物の大熊が帰ってくるのを待ち伏せしているハンターと同じような気がする。  ふふ…ふふふふ…ぜったいに撃ち取ってやる、大熊の犬彦さんめ…!  とか、我ながら想像力が混沌としはじめたところでも、カチャンと玄関の方で小さな音がしたのを俺は聞き逃さなかった。  鍵を開けた音…ついに犬彦さんが帰ってきたのだ!  「おかえりなさーーい、犬彦さんっ!」  リビングを飛び出して玄関にダッシュする俺。  レッツゴーお出迎えっ!  「ただいま、江蓮」  廊下を歩きながらコートを脱いでいるスーツ姿の犬彦さん。  うむ、見た感じ今のところ犬彦さんのごきげんメーターはノーマルのようだ、オールオッケー!  犬彦さんのごきげんメーターをもっと上昇させるため、俺は犬彦さんの横をついて歩きながらスマイル全開にして連絡事項を告げる。  「ごはんできてますよ、お風呂もわいてます!」  
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