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あー、めっちゃドキドキする…!
心臓の鼓動を強く感じながら、俺はついに犬彦さんへ切り出すことにした。
「実は犬彦さんに話したいことがあって…」
テーブルをはさんで俺の正面に座っている犬彦さんは、目を細めながらやさしい雰囲気で俺のことを見ている。
俺が自分のペースで話しはじめるのを、じっと待ってくれているのだ。
「えっと、その…今度の春休みなんですけど…」
「春休み?」
「はい、春休みにですね…その、友だちと…バッバイトしてみてもいいですかっ?」
「バイト…?」
勇気を出してドキドキしながら一気に言った俺の言葉を、犬彦さんは不思議そうにオウム返しで繰りかえした。
そう、俺は…犬彦さんから人生初バイトの許可が欲しくて、今日はずっとドキドキしていたのだ。
こんなこと言って、犬彦さんはどんなリアクションをするだろう?
何言っているんだお前にはまだ早いとか、江蓮に働くなんてことが出来るのかとか、そういうふうに思って呆れているかもしれない、…なんて考えると怖かった。
あるいは、そんなことよりもっと勉強しろよとか、こづかいが足りてないのかなんて、そういう捉え方をされるのも嫌だった。
そんなんじゃなくて、ただ俺は…。
「いいんじゃないか」
ずっと脳内で犬彦さんの返答シミュレーションを繰り返してきてドキドキもやもやしていたのに、目の前の犬彦さんはあっさりとそう答えた。
「きちんと親父さんにも相談して許可をもらわなければならないが、きっと親父さんも反対はしないだろう」
あまりにもあっさりと悩みが解決してしまって、あうあうと口をぱくぱくさせながら次の言葉が出てこなくなってしまった俺とは正反対に、缶ビール片手に穏やかなようすの犬彦さんはスラスラと話を進めていく。
「それで、どんなバイトがしたいんだ江蓮?」
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