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ここまでの会話ですっかり森田は、佐藤の話す『霊感』について信じることにしていた。
それは、『霊感』について打ち明けられる前から佐藤という人物に対して信頼があったというのもあるし、ここまでの話を聞いていても矛盾や違和感を覚えなかったからだ。
佐藤が初対面のときに自分に対して感じたという『印象』も、赤間部長のバックグラウンドは覗き込むことができないという意味も、なんかよく分かる…と森田は納得した。
すでにビールジョッキを一杯飲み干して気持ちがいいから…というのもあるかもしれないけれど、まあいいや、とにかく佐藤の言うことをすべて受け入れよう、そう森田は決めたのだ。
「この『霊感』がさ、まだ対人に発動するだけならまあいいんだ、俺も大人だし不都合な『答え』は自分の中だけに飲み込んで上手く避けていけばいい、あらゆる力にはメリットとデメリットがあるのは当然の事だし、これくらいなら俺にだってコントロールできるさ。
だけど…最近限界を感じるのは、場所に関わる『霊感』だよ」
「場所に関わる『霊感』?」
「うん、場所だよ、場所が無理なんだよ」
次の飲み物を注文する。
森田は梅酒サワー、佐藤はハイボールを頼み、届いたそれをひとくち飲んでからまた会話を再開する。
「営業先でいろんな場所へ行くだろ? そんなときたまに…なんでだか分からないんだが、どうしてもダメな場所があるんだ」
「場所…土地の『答え』や『印象』が分かるっていうこと?」
「そう、これが何なのか自分でもまだ結論が出ていないんだが…とにかく無理なんだ、何故なのか分からないけれど、この場所にいてはいけない、足を踏み入れてはいけない、そもそも気持ちが悪くて入れない…ていう場所があるんだ。
なんでだか分からない、だけど駄目なんだ、俺にはただ『答え』だけが分かる」
「へえー…でも佐藤がそう感じるからには、そこには何かがあるんだろうな」
「そう、そうなんだ、一度こんなことがあった。
理由は分からない、だけどどうしても気持ち悪くて通ることのできない道があった。
そこを通らないと商談に遅れてしまう、だからその道を行くしかないんだ、でも駄目なんだ、気持ちが悪すぎてどうしても俺はその道を通ることができない。
例えるならそれはさ…これ、この唐揚げがさ、美味そうに見えるだろう? 俺にも美味そうに見える、だけど俺は知っているんだ、何故なのか分からないけど知っているんだ、この唐揚げは美味そうに見えるけれど、実はその中身は犬のクソなんだ、犬のクソが詰まっている、だから食ってはダメなんだ、でもそのことを知っているのは俺だけで、しかも見る分には…においだって美味そうな唐揚げのにおいで、誰にもこの唐揚げを食ってはいけない理由を説明することができない、でも絶対に食べてはいけないんだ、俺は絶対に食べられない」
「嫌な例え方するなぁー」
真剣に説明をする佐藤の言葉に森田は眉をしかめながら、ぱくりと皿の上の唐揚げをほおばった。
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