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「だから俺はその嫌な道を通ることなく、回り道をして商談に遅れた。
やばかったよ、でも上手いこと誤魔化して何とか商談をご破算にすることは免れた、本当あのときはひやひやしたよ。
で、後から知ったんだが、あのときの気持ち悪い道、あのあとあそこで大きな事故があったらしい、もし俺が気持ち悪さを我慢してあの日あの道を使っていたら俺も事故に巻き込まれていたかもしれない。
そのあと、あの道の前にきても気持ち悪さを感じることはなかった、今では普通に使うことができる」
「へえーー! すごい! めちゃくちゃいいじゃん!
『霊感』のおかげで遭遇するかもしれなかった事故を回避できたんだろ?
いい能力じゃないか!」
「確かにそうかもしれない。
でも…今の仕事のままでは、俺は自分の人生をコントロールしきれないかもしれない」
佐藤はグーーッと自分の酒を一気に飲んだ。
今は彼にも酒の力が必要なのだろう。
「森田の言う通り、俺は『答え』に救われているよ、上手く利用している部分もある。
だけどさ…どう説明すればいいんだ? 第三者に、商談に遅刻していった理由を、結果としては正しい選択だったとして、その道を通りたくなくて遅刻した理由を、どう客観的に説明すればいいんだ? 俺の『霊感』ですって? 俺の『霊感』が教えてくれる『答え』だから、それは正しいことなんですって、どうやったら分かってもらえるっていうんだ?」
「それは…赤間部長だったら分かってくれるかと、」
「ああ、そうだろうな、赤間部長だったら最終的な結果で示せば経過過程についてブツブツ言ってきたりしないだろう、あの人は…俺とはまた違うなんかの力がありそうだから俺の『霊感』についても理解してくれるかもしれない、だけど他の連中は?
理屈は説明できない、でも『答え』はそうなんだって言っても、目の前の矛盾にクライアントやチームのメンバーは納得するか?
あそこの会社の受注はキャンセルしよう、遠からずあそこの会社は問題を起こしてうちの利益はショートするからだ、なんて『答え』を話したところで他の連中はこう言うだろう、試してもいないうちにそんなことを決めつけてはいけない、自分の思い込みで仕事を進めてはいけない、ってさ。
もう息が詰まりそうだ、失敗するって分かっている行動をしなくてはいけない、時間と労力を無駄にしていると知っているのにやらなくてはならない気持ち、もう俺は耐えられそうにない…!」
進退窮まっているという佐藤を引き留めたいと願っていても、森田は、あまりの彼の悩みの複雑さにおろおろしまくっている。
まさか佐藤の『霊感』に関する悩みがこんなにも難しいものだったとは…!
「…だけど、やはり一番の問題は人じゃない、場所だ。
俺はもう行けない、あそこにはもう行けないんだ、気持ちが悪すぎる、一歩だってあの建物には足を踏み入れることができない…!」
「あそこ? あの建物って…」
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