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「東京ウエストガイアパーク」
「それって…あの大型ショッピングセンター、まさかあの建物全部が入り込めないくらいヤバいのか!?」
苦々しく佐藤が口に出した東京ウエストガイアパークとは、ユニクロ、無印、スタバなどの有名店舗はもれなく網羅し、映画館などのアミューズメント施設も兼ね備えた大型ショッピングセンターである。
一日の来場者数の目安は数万人単位、シングルからファミリー層まで一日中館内で楽しむことができるくらいに大きな施設だ。
「そうなんだ、理由は分からない、でも…あそこは本当にヤバい。
気持ち悪すぎて敷地内に立ち入ることすら限界なんだ、建物内に進もうとしても吐き気がするし眩暈がハンパない、俺にはどうしても近づくことができないんだ」
「うーん、あの東京ウエストガイアパークが…。
オープンしてからそんなに年月経ってなかったよな、まだピッカピカの施設だと思ってたんだけど…あそこにそこまでヤバい何かがあったとは…。
ていうか佐藤、思いっきりガイパの営業担当だったような」
これでやっと、仕事を辞めたいと思いつめるほどの佐藤の悩みの原因が分かった。
理由は分からないけれど絶対に近づいては駄目だと『答え』が分かっている東京ウエストガイアパークという建物、その場所は思いっきり佐藤の営業担当エリアだったのだ。
東京ウエストガイアパーク…略してガイパを運営している会社とも取引があるし、その中に入っているテナント会社とも個別に付き合いがあった。
つまり…今回ばかりはもう道を迂回して遅刻するくらいでは済まない、ガイパの建物の中に入らないとまったく仕事にならないのだった。
そして『霊感』のある佐藤はどうしても建物に入ることができない。
「よしっ! わかった、こうしよう!」
ぐびぐびと気持ちよく梅酒サワーを飲み切った森田は元気よく言った。
「とりあえずガイパの営業は僕が代わるよ! あとのことは赤間部長に相談しよう、仕事を辞めるかどうかはそれからゆっくり考えたっていいじゃないか」
「森田…いいのか? 俺が行かなくて済むからといって、ガイパの『答え』は変わらない、あそこはヤバいところなんだぞ、理由は分からないけれど…」
あんまりにもあっけらかんと森田が仕事を代わるだなんてにこやかに言うもので、今度は佐藤の方がおろおろし始めるのだった。
だけど森田は(酔っぱらっているのもあってテンション高く)にこーーっと心からの笑顔を浮かべるとこう言い切った。
「だいじょうぶ! 僕、『呪いの抗体』を持ってるから、なんとかなるっしょ!」
そんなこと言われても佐藤には訳が分からなかったが、とにかくこの夜二人は楽しくお酒を飲むことができたのだった。
森田が今回の事件に関わることになる一端は、こんなところからはじまったのである。
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