お土産

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お土産

 一度客が引いたので風呂へ行き、部屋へ戻ると机の上には色とりどりの木の実や小さな野花が乱雑に置かれていた。  ふ、と声は出さずに口角だけを上げて笑う。 「今日のは、ま、合格かな」  前に一度、いや二度か。  死んだネズミが机に乗っていたことがある。 「さて。じゃ、僕はこれから少し寝ようかな」  独り言を装って、いやにわざとらしく宣言する。  こんなのに普通はひっかからないと思うでしょ。  ひっかかるやつがいるの。  どうせ、近づいてくる僕の足音に気がついて慌てて隠れたのだろう。  衣桁に掛けられた着物が、すっごく膨らんでいる。  さてと。  お行儀よく横たわると布団をかぶって枕に顔を埋める。  お土産なんかよりも、欲しいものがあるんだけどな。  文机の前に、ゆっくりとこっそりと、いつかのように大きな影がかかる。  大きく節くれだった指では、小さな野花や木の実を見栄え良く整えるのは大変だろう。  …僕が喜ぶようにって、してくれてるんだよね。  そう思うとなんだかたまらない気持ちになって、我慢ができなくなってしまう。  驚かせるつもりはなかったんだけど、ごめんね。  こちらに背中を向けているけれど、僕が動いたら気配ですぐバレてしまうだろう。  たぬきはそういうのに聡い、って、なんとなくわかるんだ。  だから、堂々と行く。 「たーぬきっ」 「うわ!!」  布団を脚で蹴っ飛ばして素早く起き上がると、広い背中に両腕で抱き着く。  だって、こうしたいんだもん。 「今日も来たんだ」 「なんだ。来たらダメか」 「んー、半分嬉しいケド、半分は…ダメかなあ」  会いに来てくれるのも、たぬきの元気そうな顔が見られるのも本当に嬉しい。  でも、いつまでも続けるわけにはいかないでしょ。  だってたぬきって、狐だし。  しかも化け狐。 「半分か?」 「そ。半分嬉しいよ。ありがと」  首だけで後ろを振り返っているたぬきの頬っぺたに、背伸びをしてちゅ、っと口づけると、固まっている肩に腕を回して頭をぎゅっとする。  たぬきは前のめりになり、膝をついたまんま片手を床につけ僕の胸元に倒れこんでくる。
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