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出会い
ここは所謂陰間が商売をする店で、客をとる場合も、僕は茶屋までは出かけない。
そんなに良い店でもないのに、一部屋自室をもらえているのは、あいつが僕に執着をしているから。
若い男店主が仕切っているここで、そいつが僕を呼ぶ声音は甘かったり厳しいものだったりする。
時に気ままに抱き、気に入らないとすぐ殴る。
閉じ込める。
蹴飛ばして、飯抜きだと喚く。
そして、金を詰む客にだけは部屋ごと差し出す。
そういう、気ままな飼い主で、僕の役目は言われた通りにすること。
ただ、それだけしか、ここで生きていても良い理由がないから。
はじめこそ泣いて許しを請うていた気がするけれど、もうそんなこと記憶違いだったんじゃないかと思ってしまう。
どうでもいい。好きじゃない。大嫌い。
だって違う。
あの人じゃない。
…あの人、って、誰だっけ。
「できました。お部屋の用意は、してありますので」
「ありがとう。僕、昼見世まで少し休むね」
「はい、お客があったら起こしに来ますね」
いいこいいこ、と、まだ結えない短い髪を撫でてあげると、見習いは嬉しそうにはにかんだ。
小さな子は可愛い。
僕もまだ、小さい子だけど。
あくびをしながら縁側を歩いて自室へ向かう途中、庭にうずくまる毛玉を見つけて足を止める。
なんだあれ。
薄汚れていて、ハッキリとはしないけれど、明るい部分は黄色かな。
黄色い毛玉と言えば、やはり、あれかな。
…生きてる、よね?
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