記憶喪失

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記憶喪失

 自分がどこから来たのかわからない。  自分がなぜここにいるのかもわからない。  物心ついた時にはすでにここにいて、こんな暮らしをしていた。  そりゃ、時々店主に当たられて怪我をしたり、嫌な客にあたってしまったりもするけれど。  衣食住は保証されているし、稼ぎ頭としてそれなりに大切にされてもいる。  その引き換えに、僕は抱かれたり抱いたりして、泣き真似をしたり微笑みを作ったりする。  何にも楽しくないのにね。  何にも哀しくないんだって言い聞かせて。  そのうちそれが本当になる。  生きていないような気持ちになる。  贅沢ものなのかな。  気持ちよさそうに眠る狐を包む半纏に、赤い血が斑に染みて行く。  点々と、花びらのように。  この色、におい、生きてるって、このコみたいなことを言うんじゃなかったっけ。  どうだったかな。  忘れちゃったな。  どうして、忘れちゃったんだったかなあ。
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