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夜菊
この花街界隈の陰間の中に、売れっコなのに狐に憑かれている、変わった少年がいる。
それも相当に見目麗しく愛らしい、お大臣でもお武家様でもどんな高僧でもなかなか手がでず、顔すら見られぬ者が大半だ、と大層噂になっている。
遊女や陰間は猫や金魚を飼うことがあるけれど、さすがに狐を愛でていると言うのは聞いたことがない。
どれ、どんな変わり者なのだろう、と、面白がる者たちで、以前にもまして客足は途絶えることがない。
客足とは言っても、買えない者が大半で、店まで行って、他の陰間を買うか、酒を飲んで帰るかと言う、肝試しのようなただのお遊びだ。
けれど、もちろん買える者は買えるので、金に目のない店主はこの少年、夜菊を時間が許すだけ客につけた。
もちろん夜菊の体が空いていなければ、待つ気のない者は他の陰間を買う。
なんの問題もなく部屋代は店主に支払われ、誰も飯を食いっぱぐれることはない。
半ば客寄せのような役割を担っていたが、夜菊はたいして気にしていなかった。
狐を可愛がっていると言うのは本当だったし、金が入れば殴られることもない。
好きなものが好きなだけ買える。
自由以外のものならば、大抵のものならば全て。
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