ゆめ、うつつ

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ゆめ、うつつ

 そうして想像して少しでも幸せな心持ちになって、男の首へ腕を回すと、うっとりと首を傾げて見せる。  とろけそうな妖艶な微笑みに、どんな偏屈な客ですらも歓喜し、自分を求めているのだと本気で錯覚するのだ。  夜菊の濡れた唇が、噛みしめすぎて傷だらけだと言うことには、誰も気がつかない。  ただ笑っていればいい。  くらくらと揺れる部屋を、うんざりと酔いながら眺めて。  決められた時が過ぎるのを待つだけ。  これをあと、何度繰り返したら、僕は。  もう目覚めなくても良くなるの。  ゆっくり眠っても、良くなるの。  たぬきは、知ってる?  僕も16、17になれば、お役御免だ。  その後、こんな贅沢はおまえにさせてやれないかもしれないから。  今のうちに、好きなだけ食べて甘えてね。  そして、おまえも僕を捨てて行って。
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