夢を見る

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 ああ、指先にささくれが出来てしまっている。  この寒い中、薄着で布団部屋に放られていたのだ、ろくに眠れた気もしない。  夢のせいもある、とても衝撃的な内容だったのだ、それなのに驚きは少ない。  胸を弾ませて、僕は暗闇の中息をとめて走っていた。  音もたてず、この手に強く、握りしめて。  …何を、だっけ? 「あれは…」  今、実際にこの身についている手と言えば、悔しいほどに無力で、何者にも逆らうことなどできないか弱いもの。  女のように細くしなやかで、組み敷かれるのに適した体。  どう考えたって、あんなに力強く、何かの命を奪うことなどできやしないだろうに。  ほんと、夢は夢って感じ、と焦がれる気持ちを無理に飲み込んだ。 「姉さん、失礼致します。髪、結いますよ」 「ああ、うん。よろしくね」  襖の向こうから声をかけられて、返事を返す。  鏡に向かって座ると、ほつれてしまった髪を整えてもらいながら、化粧品の入った道具箱を引き寄せる。  肌は白く、滑らかでなければいけない。  クマを隠す為に、白粉をとんとん、と目元に厚く乗せて行く。  僕はそこまで頓着はしないけれど、「そうしなければいけない」と教えられてきたので、それ以外のことは知らない。 「あーだるいー…」 「お姉さん、昨日殴られていたでしょう。怪我は大丈夫ですか」 「へーき。そんなやわじゃない、はず」  僕に懐いてくれている、最近店に来た見習いが気遣ってくれる。  姉さん、と僕のことを呼ぶけど、僕は女じゃないし、このコも女の子じゃない。  女の子じゃないのに、僕は、この辺では珍しい色素の薄い明るい茶色の髪を長く伸ばして、二重のまぶたには決められた化粧品で血色が良く健康そうに見えるよう桃色を乗せる。  唇には紅を引いて、遊女の間で流行っているのだと言う結い方で髪を整える。  着物も、女性の着るそれを真似て、衿を首筋から肩の一部が見えるよう抜いて着付ける。  僕の顔立ちには、イマイチ似合っていないように感じるけれど、このちぐはぐさが良いのだと言う客もいるので、まあこれで良いのだろう。
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