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片恋の罠編
卒業式。
ついに天王寺が卒業する。
アメリカにいる父親の元で勉強しなければならないと、卒業したらしばらくアメリカに立つと言った。
「すぐ戻る」
空港でそう言った天王寺の表情は暗く重い。離れたくないと、全身で訴えているのは俺の錯覚じゃない。
「ちゃんとやることやってこいよ」
天王寺家を継ぐんだろうって、背中を押したつもりが、天王寺はますます影を落とす。
「……わかっておる」
「俺は卒業しても実家にいるつもりだから、どこにも行かないって」
日本に戻ってきて、会いたくなったらくればいいだろうって笑ってやるのに、天王寺は一切笑わない。
アメリカに行けば、多忙な毎日が待っていて、簡単には連絡できないと、どんどん落ちていく。おまけに、浅見も親のもとへ戻り、二年間天王寺と離れると言った。
二人が再び出会うのは二年後だと。
「私の不在時に、姫に何かあったらどういたすのだ」
自分も浅見もいない状況が心配で心配で仕方がないのだと、唇まで噛み締める。
はぁ~、どこまで俺は過保護にされるのかと、ため息しかでてこない。ドアに指を挟んだだけで、天王寺家の車に押し込められて病院へ連れていかれるほど、俺は過剰な扱いを受けている。それもこれも全部、天王寺の愛情らしいがもはや恐怖の域。
自分で言うのは、超恥ずかしいんだけど、天王寺は俺しか見えてないんだ。
「なんもないって」
「根拠はあるのか?」
「根拠はないけど、火月だって、水月だっているんだし……って、おい!」
人が話してる途中で、いきなり抱き締められた。
「このまま姫を連れ去ってしまいたい」
包み込むように抱き締めながら、一緒にアメリカに連れていくと、本音を吐き出す。それが叶わないことくらい分かってるのに、天王寺はわがままを口にする。
一般ロビーではなく、ここは天王寺家のための部屋なので、誰もいないけど、大きな窓から発着場は良く見える。外から見られたら、やっぱり恥ずかしいので、俺は手を突っぱねて抵抗する。
「恥ずかしいだろうっ」
「二人しかおらぬ」
「外から見えるだろうが」
「見せつければ良いッ」
腕の力を一気に強め、天王寺は俺を離すまいと必死に抱き締める。こうなったら、意地でも離さないだろうと、俺は無駄な抵抗を止める。力でこいつに勝つ自信はゼロだ。
出発まで20分。
それまで好きなだけ抱き締めればいいんじゃないかと、全身の力を抜けば、突然抱き上げられた。
「な、なに?!」
「姫が欲しい」
は? はぁぁぁ?!
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