待った?

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待った?

「やぁ!待った?」  アレンが声をかけた。  エレンが振り向いた。夕暮れの学校の屋上。  明るい赤色の髪をポニーテールにしているので髪が跳ねる。ピンと尖った耳の間で。  声をかけていた時に見えていた背中側の同じ赤い色のふさふさしたシッポはエレンが振り返ると同時に見えなくなった。   「アレン!」  エレンは嬉しそうに赤い色のシッポをパタパタと振っている。  エレンはつい最近、学校に通う事になった。  というか、お母さんの勧めで、学校に通うために人間に化けていた。  今はキツネの世界も厳しいことが多い。  世界的な気温上昇によってキツネの生息域も変わってきている。  獲れるエサも変わってきているのでそういった勉強をするために人間に化け、人間の中学校で勉強することになった。その為に人間の教科書を一生懸命勉強して中学校に入れるレベルにまでなった。  そこでやっと人間への化け方をお母さんに教わって一般的な中学生に化けることができるようになり、ようやく中学校に編入した。  不安を持って編入した中学校で、エレンは素敵な男の子にあった。  深い茶色の髪の色をして、中学校のクラスに編入したときからエレンにとても親切にしてくれた。  ただ、それはアレンがクラス委員をしていたからに過ぎなかったのだけれど。  でも、エレンは嬉しかった。  人間の世界でどういう風に友達を作ったらよいのかわからず、とても不安に思っていたのだ。たとえクラス委員の仕事の一環だとしても普通に人間の男の子と話せるのがとても嬉しかった。  アレンが良く打話しかけるせいか、クラスメイトもとてもやさしかった。  もちろん目的である勉強は一生懸命やった。  授業もしっかり聞いたし、窓際の席の陽だまりでうっかりと居眠りをしそうになっても、隣の友達がつついて起してくれて、大事なところは聞き逃さずに、なんとか持ちこたえて授業に打ち込んだ。  地球温暖化の授業を受け終わったらたらエレンはキツネの世界に戻るのだ。    ちょうどこの日でエレンは学校を去る。  クラスでその発表があった後、アレンがエレンに囁いた。 「放課後ちょっと屋上にきてくれる?」 「うん。わかった。」  そこで、最初のシーンである。  アレンはエレンに向かってこう言った。 「キツネの世界に戻ったら勉強した事をちゃんと生かしてね。」 「エレンの家が引っ越したところに僕の家族も行くからね。」 「え?」 「実は僕もキツネなのさ。小学校から人間の世界にいるのでもう少し勉強したら追いかけていくよ。」 「え?」 「僕とエレンは親が決めた婚約者なんだよ。」 「これからのキツネの安全を守って未来のキツネの生存を僕たちが守るんだ。」 「え?」 「嫌かい?困ったな。」 「そうじゃないわ。そうじゃないけど。」 「私の事キツネって最初から分かっていたの?」 「うん。クラスメイトもみんな分かっていたと思うよ。エレンはシッポと耳が隠せていないからね。」 「でも、近いうちに色々な動物が地球の危機から身を守るために勉強しに来るだろうってことは人間界ではもう周知されているから、クラスメイトもエレンの事を知っていて、協力してくれたんだよ。」 「えぇぇ~!」 「私、クラスのみんなをすっかり騙しているつもりでいたのに、私だけが騙されていたの?」 「ねぇ、それで、アレンはキツネってことばれているの?」 「いや。僕はさっきも言ったように小学校から人間界にいるし、エレンよりは化けるのが少しは上手だからね。まだばれてはいないはずだよ。」 「ひどい。私だけ騙されていただなんて。」  エレンは膨れた方をしてアレンの方を見た。  アレンはクスッと笑った。 「エレン、髭まで出ちゃってるよ。」 「エレン、今日お家に帰ったら、アレンはもう少しで戻ってくるってお母さんに伝えてね。」 「それからエレンは次に人間界に来るときの為にもう少し変身を勉強した方がいいかもね。」  エレンは騙されてしまって悔しかったけれど、キツネの世界の未来のために人間までが協力してくれた事を心に止め、キツネの世界に帰って行った。  アレンとエレンはやがて結婚して今の生息域を替えていくだろう。キツネが滅びないように。そして、他の動物たちもきっと同じように・・・・  いつまでも動物と共存できるように人間が望んでいるように・・・ 【了】
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