僕の初恋が踏み台になっている

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 それはいつからだったのか。  はっきりとは覚えていないけれど、僕の視界の先にはいつも、同じクラスの藤木さんがいた。でもそれは、自分でも気付かないうちに彼女に惹かれていた僕が、無意識に目で追っていたからではないかと思う。  藤木さんは少しおっちょこちょいで天然なところがあり、僕はそういう、のほほんとした雰囲気の女子がとても好きだった。  藤木さんは授業中に、ノートの上の消しカスを払おうとして、勢い余ってノートごと吹っ飛ばしてしまう人だ。  手裏剣(しゅりけん)のように勢いのついた藤木さんのノートが、床の上を回転しながら教卓の近くまでスライドしていく。藤木さんはそれを回収するため、必死に身を屈めてノートまで近づき、そっとノートの端を摘んで忍び足で席に戻っていた。  その姿は、まるで愛犬のポテトが僕の荷物をこっそり自分の寝床へと持っていく時の、『やったぞ。見つからずに靴下を回収できたぞ』という、どこか自信に満ちた忍び足と似ている。  僕は愛犬に、そして藤木さんに、思い切り見つかっていますよと、伝えたい気持ちでいっぱいだった。  そんな藤木さんの微笑ましい行動を目撃するたび、僕の心は弾む。いつも僕の心の温度を、藤木さんは少し上げてくれる人だった。
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