僕の初恋が踏み台になっている

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 掃除当番の藤木さんが、(ほうき)で教室を掃いている。藤木さんの前で、規則正しく左右に揺れる箒。なんだか物凄くリズムが良い。  音楽で使うメトロノームのような心地いいテンポで、教室を真っ直ぐに掃き進む藤木さん。しばらくして、教室の壁に激突していた。  リズムに乗り過ぎた藤木さんは、前方への注意を忘れていたと思われる。  途中で声を掛ければよかった。  でも、まさかそのまま壁とご対面してしまうとは思わなかったのだ。申し訳ないと思いつつ、僕はちょっと笑う。ごめんね、藤木さん。僕は心で謝罪した。  額を照れながらさする藤木さん。  その横顔がとても可愛い。  しばらくして藤木さんはハッとしたように周囲を見渡した。失態を見られていなかったかと、確認するように周りを伺っている。僕は少し離れた窓際で、スマホを見ているフリをしていた。  藤木さんが安堵の息を吐き、うん。と頷いてから掃除を再開する。今のは恐らく『見られてないよね? うん、大丈夫』そんな自問自答の、うん。なのだと思う。  藤木さんがまたリズムに乗る。  僕は途方もなくヒヤヒヤした。  *  *  自室で、愛犬ポテトが自分の尻尾を捕まえようと回っている。くるくるとリズム良く追い掛ける。回って、(まわ)って、回りすぎて目も廻り、そのまま壁に激突した。  藤木さん!  違う。 「ポテト! 大丈夫か?」  僕は愛犬の頭を撫でながら考えた。自分でも気付いているけれど、どう考えても、近頃の僕は藤木さんを見つめ過ぎている。  もう認めるしかない。  僕は藤木さんの事が好きなのだ。  まだ平熱しか知らない僕の(やわ)な心臓が、初めての微熱に思考を少しぼんやりさせた。
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