僕の初恋が踏み台になっている

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 うちの高校はバスケットボールの強豪校で、全国大会の常連だ。そんなチームで、僕は唯一の二年生レギュラーだった。  ポジションはポイントガード。  チームの司令塔をしている。  いつもたくさんの女子達が練習の応援や差し入れに来てくれるけれど、僕はずっとバスケ漬けの日々を送っているので、今まで彼女がいたことは無かったし、女子の扱いもよく分かっていない。  芸術的に綺麗なお弁当をくれたり、バスケットボールを刺繍した見事なタオルをくれたり、僕をサポートしてくれる女子達に感謝と申し訳なさを感じつつ、それでも僕は、家庭科の調理実習で()で卵に失敗する藤木さんが好きだった。  その日のメインはハンバーグ。  藤木さんはサイドメニューのサラダ用に、レタスの上に輪切りにした茹で卵を乗せるという極めて単純なミッションに挑んでいる。  しかし茹で始めてからしばらくして、茹で過ぎではないかと不安になったのか、藤木さんが割と早い段階で卵を取り出し、殻を()きやすいように水につけて冷やし始めた。 「あ」  ハッとして、(おそ)(おそ)る卵を振ってみる藤木さん。  やはりまだ、中身が生だったようで、再びその卵を鍋へ投入する。  もう一度茹でる。しばらくして取り出し冷やす。振ってみる。「あれ?」茹でる。冷やす。振る。茹でる、冷やす、振る。ゆでるひやすふる。  僕がこの卵なら「俺をどうするつもりだ!」と叫んでいる。急激な加熱、瞬間的冷却、そしてハンドシェイク。それらが規則的に繰り返され……。  立派な茹で卵になるべく、熱湯の中に旅立ったはずの彼の未来の姿が、誰も予想し得ない何者かになろうとしている。  最終的に藤木さんの班のレタスの上には、謎の白い何かが乗っていた。  涙目でしょんぼりしている藤木さん。僕はなんでも器用にこなせるタイプなので、料理もそれなりにできる。藤木さんに美味しい料理を振る舞って元気付けてあげたい。  僕はもう、藤木さんを見つめずにはいられなくなっていた。
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