僕の初恋が踏み台になっている

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「わ、私は……あくまで隠れファンなので、陰ながら、隅の方から、応援しているだけなので、その、兄が……変な事を言ってたら、ごめんなさひぃ!」  昨日の先輩との出来事を話す僕に、藤木さんは土下座しそうな勢いで頭を下げる。 「や、全然! その、すごく嬉しかったから……。むしろ有り難う! それに、僕も藤木さんの隠れファンなんだ」  僕がそう言うと、驚いたように顔を上げる藤木さん。肩で揺れるサラサラの髪の隙間から、ほんのり赤く染まった耳が見えた。  藤木さんが恥ずかしそうに微笑む。僕の柔な心臓が微熱を越えて、くらくらと幸せの目眩がした。  *  *  今日はバレンタインデーだ。  朝から藤木さんがソワソワしている。当然、僕もソワソワしていた。そして、昼休みに藤木さんに呼び出された僕は屋上にいる。赤い顔で、僕にチョコを差し出す藤木さん。 「どうぞ、お納め下さい」  まるで時代劇の越後屋が悪代官に何か横流しする時のように、チョコを差し出してくる藤木さん。このバレンタインとは程遠い雰囲気が僕は好きだ。  僕も今日、藤木さんにちゃんとした言葉で気持ちを伝えると決めている。 「有り難う。僕からも、伝えたい事があるんだ。……藤木さんのことが好きです。僕と付き合って下さい」    高校二年の冬の昼下がり。  僕に初めて彼女ができた。  *  * 「藤木さん、遅くなってごめんね。お待たせ」  その日の放課後。  教室で、僕の部活が終わるのを待ってくれていた藤木さんは、すやすやと居眠りをしていた。  可愛いなと、しみじみ思って寝顔を見つめる。しばらくして、藤木さんの机に置かれたノートの文字が目に入った。  え?  僕は固まる。  そこには『真中くん攻略ノート』と、藤木さんの丸い文字で小さく書かれていた。見てはいけないような気がする。きっと、僕が傷つく事になる。そんな嫌な予感ばかりが頭を過ぎる中で、それでも僕は、そのノートに手を伸ばしていた。
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