僕の初恋が踏み台になっている

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 あれから、三年のクラス替えで藤木さんとは別のクラスになり、その後、僕はバスケの名門であるアメリカの大学に留学した。バスケットの本場アメリカで努力を重ねる日々を過ごす中で、同じく日本から留学していた可愛い彼女もできた。バスケ部のマネージャーをしている彼女は、キャラではなく正真正銘・本物の天然さんだ。僕はようやく、天然の女神と巡り会えたのだ。  そして日本のプロリーグに在籍する事になり、久しぶりの帰国で僕が目にしたのは、とある映画で『最優秀新人賞』を受賞しているテレビの中の藤木さんの姿だった。 【脇役ではあるが、この映画のキーパーソンとなる天然で少し残念な女子・マチコの演技には目を見張るものがあった】  との事らしい。  でしょうねー。と、僕は思う。  天然を演じさせたら彼女の右に出るものはいない。 「自分には演じる事が向いているのではないか。そう私に気付かせてくれたのは、高校のクラスメートへの叶わぬ恋がきっかけでした。失恋の悲しみに暮れる中で、私は女優という道を歩んでみようと決意したのです」  ハキハキと、つまるこなく受賞の挨拶をする藤木さん。そうか、この話し方が素の彼女なのか。  それにしても……。  見事な程に、僕の初恋が踏み台になっている。  ここまでくると、僕はなんだかもう笑ってしまい、僕が騙された事により誕生したこの新人女優に、テレビ画面のこちら側から盛大な拍手を送ったのだった。  了
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