12人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「清水の舞台から飛び降りる」なんて言葉があるけれど、私はそんなの別に怖いと思わない。
だって、そこら中に木が緑々と生い茂っていて綺麗だし、遠くには五重塔や京都タワーだって見える。真下に目を向けても想像していたほど高さを感じない。
この程度なら、私が今下そうとしている決断の方がずっと勇気が必要だ。
初めて来た本物の清水の舞台で、景色をぼんやりと眺めながらそんなことを考えていた。
ふと、強い風が吹いた。木々が一斉に激しくしなり、修学旅行で一緒に来た同級生たちがキャアキャアと悲鳴をあげる。
大袈裟だなぁなんて思っていると、突然右腕に重みと柔らかな感触が訪れた。
「ゆ、揺れてるよぉ。怖いよ慶ちゃん」
「……気のせいだよ。大丈夫」
右腕に抱きついてきたのが凛音の身体であることを確認した私は、優しく諭すように伝え、ゆっくりと彼女の腕をほどいた。
彼女の茶色がかった細い髪が風にたなびく。刹那、ほんのりと甘い香りが、誘惑するかのように私の鼻腔をくすぐった。
こうやって軽々しく抱きつくのはやめてほしい。
本当はそう言いたいけど、凛音にとっても、また側から見ても、ただの女友達同士のスキンシップなのだから何も言えない。やめてほしいと思うのは全部私個人の問題だ。
最初のコメントを投稿しよう!