願いの穴くぐり

「ところで、今日はバスで京都駅まで行って、そこから奈良に移動だよね？　私たちの班は、まずは東大寺だっけ？」

　頭ナデナデを継続しつつ唐突に話題転換をする仁美。戸惑いつつも首を縦に振ると、話題はすぐにUターンをして戻って来た。

「大仏殿の柱の穴あるじゃん？　大仏の鼻の穴と同じ大きさの。慶、アレくぐれたらさ、告白しなよ」
「は！？　なんでそうなるの！」

　仁美の言葉の意図がわからない。揶揄われているのだろうかと少し口調が荒くなってしまったが、彼女がそんなことするはずないとすぐに思い直す。

「知らない？　うちの高校に伝わるジンクス。修学旅行で大仏の鼻の穴くぐった後で告白したら成功する、ってやつ」
「ええ、そんなの知らないよ」
「そう？　まぁでも、うちの高校関係なく祈願成就のご利益はあるらしいからさ」
「で、でも」
「あっ、私は無駄な贅肉付いてないからくぐれるだろうけど、慶には無理かな？」

　いきなり喧嘩をふっかけられ、「くぐれらぁ！」と思わず買ってしまった。くそぅ、恨むぞ仁美め。