願いの穴くぐり

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「清水の舞台から飛び降りる」なんて言葉があるけれど、私はそんなの別に怖いと思わない。  だって、そこら中に木が緑々と生い茂っていて綺麗だし、遠くには五重塔や京都タワーだって見える。真下に目を向けても想像していたほど高さを感じない。  この程度なら、私が今下そうとしている決断の方がずっと勇気が必要だ。  初めて来た本物の清水の舞台で、景色をぼんやりと眺めながらそんなことを考えていた。  ふと、強い風が吹いた。木々が一斉に激しくしなり、修学旅行で一緒に来た同級生たちがキャアキャアと悲鳴をあげる。  大袈裟だなぁなんて思っていると、突然右腕に重みと柔らかな感触が訪れた。 「ゆ、揺れてるよぉ。怖いよ慶ちゃん」 「……気のせいだよ。大丈夫」  右腕に抱きついてきたのが凛音(りんね)の身体であることを確認した私は、優しく諭すように伝え、ゆっくりと彼女の腕をほどいた。  彼女の茶色がかった細い髪が風にたなびく。刹那、ほんのりと甘い香りが、誘惑するかのように私の鼻腔をくすぐった。  こうやって軽々しく抱きつくのはやめてほしい。  本当はそう言いたいけど、凛音にとっても、また(はた)から見ても、ただの女友達同士のスキンシップなのだから何も言えない。やめてほしいと思うのは全部私個人の問題だ。
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