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駐車場
グンマの寒さに閉口しながら、駐車場に向かう。
──引っ越してけっこう経つのに、この体の芯まで凍らせようとする寒風には、どうしても慣れないよぉ──
あたしはコートの襟元を掴みながら前かがみになり押し戻そうとする寒風と戦う。
家に帰れば母の温かい料理が待っている、赤味噌が手に入ったから味噌煮込みうどんにしようと今朝言ってくれたのを思い出した。
それを楽しみにクルマに向かうと、ふと気になるものが目に入った。
──あれ? 母のコートに似てるな──
目を凝らしてみると、やはり母だった。
──なんでこんなところに? ──
声をかけようと追いかけると、見覚えのあるクルマの横に止まり、中に乗り込んだ。
──え? なにあのクルマ……って、あたしの上司のクルマじゃん。どういうこと?! ──
なにか怪しい空気を感じて、気づかれないように近づき中をうかがう。
助手席にはやはり母が、そして運転席には上司が座っていた。
窓は曇ってない、ということはいま会ったばかりだ。何か話してる、聞こえないけど、口の動きから察するに、ム・ス・メと言っているのは分かった。
──あたしのことかしら──
すると母は封筒を取り出し、上司に渡そうとする。しかし上司はそれを断わるが、何回かの押し問答の末、受け取ったのだ。
──な、なんなのあれ? 何をやってるの? ──
母はクルマから降りると、あたしに気づかず足早に去っていき、上司のクルマも走り出していく。突然の出来事にあたしはぼう然と立ち尽くすしかなかった……。
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