次の約束と駅のホーム

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次の約束と駅のホーム

 遠藤さんが腕時計を見た。  『もう、20時半やしぼちぼち店出よか?』 「あっ、もうそんな時間ですか!ぼちぼち出ましょう。会計割り勘にしましょうネ。」 と言って、遠藤さんに有無を言わさない様にさっと伝票入れから伝票を抜いて、3枚ある伝票の小計をスマホの電卓アプリで計算した。 「4350円で、2で割ったら2175円ですね。」 『割り勘か…分かった。ボクまとめて払うし、端数いいし2000円頂戴。』 「分かりました。ありがとうございます。」 財布から2000円出して、伝票と一緒に遠藤さんに渡した。一旦財布に2000円を仕舞って、伝票は手に。 『ありがとう。そしたら出よか。』 私は頷いて、荷物を持って席を立つ。遠藤さんも荷物を持って席を立つと、店の入口付近にあるレジカウンターへ歩きだしたので後ろをついて歩いた。 『会計お願いします。』 と言って、店員さんに伝票を渡した遠藤さん。 『ありがとうございます。』 伝票を受け取って下のバーコードをレジのハンドスキャナーで読み込む店員さん。 『ありがとうございます。お会計4350円です。』 財布から5000円札を取り出してトレーに置いた。 『5000円お預かりします…お釣り650円です。お確かめ下さい。』 お釣りを手に取って確めて、 『確かに。ありがとう。ご馳走さん。』 と言って、お釣を財布に入れてお店の外に出た。私も、 「ご馳走さまでした。」 と言って、続いてお店の外に出たら、直ぐのところで待っていた遠藤さんの横に並ぶと駅に向かって歩きだした。 『さっきの話やねんけど、今週の金曜日、また駅の改札口出たとこで待ち合わせして呑みに行かへん?もちろん、佐藤さんの都合がよかったら。』 「今週の金曜日…なんか予定入っていたような…。」 通行の邪魔にならない端で立ち止まって、カバンの中からスケジュール帳を出して見てみると…(あっ、予定入ってる…)。 「遠藤さん、ごめんなさい。同期との飲み会があるんです。」 『あっ…そっか…。同期の飲み会…か…残念…そっか…』 遠藤さんの声が段々尻すぼみになっていく…と、思ったら急に元気になった。 『じゃ、今週の土曜日の午後からドライブ行かへん?』 「土曜日は予定何にもないので、大丈夫です。」 『やった!ありがとう。じゃ、詳しくは後日アプリでやり取りしよか。』 と、小さくガッツポーズをしている遠藤さん。かわいらしい様子を見て本人に気づかれないように笑う。 「分かりました。立ち止まってすみません。そしたら、駅に向かいましょうか。」 『行こ行こ!…ところで佐藤さんは京都、奈良のどっち方面?』 「私は、奈良方面です。」 『おっ、同じや!』 嬉しそうな遠藤さんを見て、私も嬉しくなる。 「私最寄駅が△△駅なんで、急行に乗るんです。その方が早いから。」 『そ、そっか…。ボクは普通。最寄駅が✕✕駅やから普通しか止まらへんねん…そしたらホームでさよならかぁ…。』 話をしている間に駅に到着。歩きながらカバンの内ポケットからICOCAを出して改札機にICOCAをかざして、駅の中に入って邪魔にならない場所で遠藤さんを待つ。  スーツの内ポケットにICOCAを仕舞いながら私のいる場所に来た。 『お待たせ、佐藤さん。そしたらホームに行こか。』 「はい。」 遠藤さんはあえてエスカレーターの方に行かずに階段に向かって歩きだした。 「あれっ?エスカレーターに乗らないんですか?」 『うん、階段で行く。』 「何でですか?」 『ん?僅かでも時間稼ぎ?』 「時間稼ぎ…。」 『そう!』 ニッコリ笑って、私の歩調に合わせて歩く遠藤さんと横並びになって階段へ向かう。 階段を登りだす。上がる毎に少し息があがる。 『佐藤さん、普段から運動不足?』 「はぁー…そうです…はい。」 『朝、駅から会社まで送迎バス?』 「は、い…そ、う…で、す。」 『送迎バス乗らんと歩いたら結構言い運動になるで。』 「あー…あ、朝ち…ちゃんと、……お、起きれた、ら、そう…し、し、ます…。」 『朝、弱いんやね…。』 そうこう話している間に階段を登り切る。 "間もなく1番線に○○行き急行が参ります。黄色い線の内側までお下がり下さい。" 「あっ、遠藤さん、この急行に乗りますね。また、後日アプリでやり取りしましょうネ。今日は楽しかったです。ありがとうございました。また…気をつけて帰って下さいね。」 ちょっと早口で遠藤さんに話し掛ける。 『あっ、こっちこそありがとう。家に帰ったらアプリにメッセージくれる?無事着いたか心配やし。』 「分かりました!ありがとうございます。あっ、電車来ました。じゃぁ、また…。」 電車のドアが開いたので乗ってドア直ぐ横の手すりに掴まって遠藤さんに向き直る。ドアが閉まる。手を振ると、遠藤さんも小さく手を振っていた。 (終わり)
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