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由理の部屋
美月は喉がカラカラだった。
真夏のアスファルトは昼間の熱を溜めていて、夜でも身体中から噴き出る汗はしっとりと洋服を濡らし絡みつき、走っている美月の動きの邪魔をしてくる。
「ヤバイ、ヤバイ、間に合わなない」
楽しみにしていたドラマの録画予約を忘れていた。初回を見逃してしまう程悔しい事はない。しかも今日は友達の由理の家に2泊3日で泊まる事になっているのだ。
美月は何回かしか来たことのない街の夜道を早歩きで歩きながら後悔の波が襲ってきた。
なんでこんな事引き受けちゃったんだろう…。
今夜泊まる由理の家には由理はいないのだ。由理は今朝、韓国へと飛び立って行った。大好きなK-popアイドルのコンサートに参戦するのだ。その間ペットで飼っている亀の餌やりを頼まれたのだった。
最初聞いた時は「亀に?」と思ったが、友達の由理は亀の餌やりのお礼にそのグループのグッズを美月にプレゼントするのを条件にした。美月もそのグループのファンなのだ。しかし韓国まで行く程のお金の余裕などなかった。日本では手に入らないグッズはファンにとっては貴重品だ。
美月は正に物につられて亀の餌やりを引き受けてしまっていた。
美月は右手に握り締めているスマホで時間を確認した。
「あと15分!」
お泊まりセットと明日の大学の授業の教材が肩に食い込ませながら由理のマンションまで走った。
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