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その瞬間美月の心臓はフリーズした。
体中の血が一気に引いていくのを感じ、バスタブに大量に垂れているコンディショナーに足を滑らせ勢いよく尻もちをついた。
「いたーっ!!」
あまりの激痛で動けず、バスタブの中でひっくり返ったまま目を開くと、クリーム色の浴室の天井にある点検口が見えた。
あの不気味な女の薄っすら映った姿を思い出す。
ヤバイ、次はきっとこの点検口を開けて出てくるかもしれない。
美月は点検口が勝手に開き長い髪の毛が垂れている風景を思い浮かべた。
怖すぎて、すぐに浴室を出たいが、そこにはまだあの不気味な女がいるかもしれない。
ドアか?点検口か?ドアか?点検口か?
まるで映画で良くみる時限爆弾のリード線を選ぶ様に美月の視線はドアの方と点検口を行ったり来たりしていた。
落ち着け、落ち着け私。もしかしたら見間違いかもしれない。
でも、この姿勢から立ち上がってドアを確認するのも怖い。
もし、まだドアの所に不気味な女がいたら、裸のまま朝までこの浴室で過ごさなければいけないかもと覚悟すると、バスタブから目だけを覗かせた。
ドアには人影などなく、磨りガラス風の扉の端っこの方に美月の部屋着のピンク色が薄っすら見えるだけだった。
美月は自分に付いている泡すらながさずにドアの方に行くと隙間から脱衣所に誰もいない事を確認し、急いでタオル一枚を体に巻きつけ部屋へ行き部屋中の全ての明かりを付けた。
そして美月はスンスンと警察犬みたいに部屋中の匂いを隅から隅まで確認していった。
どこからも、あの焦げ臭い香りは感じる事はない。
あの臭いはなんだったのだろう。
あの不気味な女の影も…。
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