26人が本棚に入れています
本棚に追加
美月はテレビのチャンネルを変えて出来るだけバカバカしいふざけた明るい番組を探した。
若手のお笑い芸人達が沢山出ている番組に設定し、その番組を暫く眺めていたが内容などは全く頭にまで届くこともなく右の耳から左の耳へとスムーズに通り過ぎていくだけだった。
マグカップの白湯をすすりながら、ベッドから丸見えの小さなキッチンを眺めていた。
そこにある沢山のスティック状のインスタント飲み物が見える。
「あぁ、ココアが飲みたいなぁ…」
それにしても種類が充実している。美月が飲みたかったココアだけでなく、カフェオレ、抹茶ラテ、キャラメルラテ、ミルクティーなど、まるでドリンクバーみたいだなと美月は思った。
ドリンクバー…。由理と出会ったばかりの頃を思い出した。
それはまだ入学したばかりで相手を探りながら付き合っていた時期、大学の近くのファミレスでお茶をしようと何人かでファミレスに入った時の事だ。
春なのにその日は肌寒かったのを覚えている。
山盛りポテト2つとドリンクバーを頼んだ。
寒くて皆んなでホットココアを飲んで、「うちらどれだけココア好きなのって感じだよねー?」なんて笑いあった。
そして話していく内にそれぞれ住んでいる場所の話になっていき、最後に由理が住んでいる場所を話すと、みんな一斉に驚いたのだ。
大学の駅は急行は止まらないが、そこから3駅先の由理の最寄り駅は急行も止まるし、駅前にはショッピングビルがあり商店街も賑わっている人気の土地で家賃が高かったからだ。
一人暮らしをしている子達は人気とは程遠い地味な土地に住んでいた。
「由理ちゃん家ってお金持ちなんだね!」
皆んな由理を見る目が変わっていた。
「由理ちゃん」じゃなくて「由理さん」または「由理さま」と呼んだ方がいいのではないかと言う空気まで流れていた。
由理はそんな空気を散らす様に両手を大きく振った。
「お金持ちじゃないよ〜!ちょっと訳あり物件みたいで格安で借りれたんだよね…」
「ひぃ〜!訳あり!?」
由理の話を聞いてみんなが叫び声に近い声を出した。
私たちの声を聞いたほかのお客さんや、ウエイトレスが一斉に私達の方を向いた。その冷たい視線を感じ、みんな慌てて口を押さえて肩をすぼめた。
「いや〜訳ありって言っても、皆んなが期待しているような大した訳はないんだよ?」
由理は笑いながらそう言うと残っていたココアを一気に飲み干し新しい飲み物を取りにドリンクバーへと行ってしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!