由理の部屋

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美月は部屋の中心と思える場所に立ち、全体を見回した。 「お札ってどんな所に貼ってあるんだろう…」 美月の家にはお札など貼られていない。 お札や七五三の時にもらった蒲鉾の板みたいのは家のタンスの上に飾られてあった。 「神様を見下ろす事になるから高い所に置いとかなきゃだめよ!この罰当たり!」 と、だらしのない母に祖母が怒っていたのを思い出した。 「高い所の方がある確率が高いかなぁ?」 美月は写真が何枚も貼られている壁の前に畳まれていた折り畳み椅子を出し、怪しそうなカーテンレールの上をチェックしていると何かが貼られているのが見えた。 「ビンゴ!」 由理は椅子の上にで背伸びをし、ついでに鼻の下も伸ばしながら懸命にそれを確認した。 でも、それはどうやら『お札』とはちょっと違うみたいだった。 形は丸くて、鳥獣戯画に描かれている様な兎が大阪のあのグリコの看板の様に万歳している。 そして何より築20年のこの部屋と不釣り合いなくらい茶色く日焼けして、随分と昔に貼られた物に見える。 「これ…。なんか怪しいよね…」 もっとよく見ようと、うさぎの絵に触れようと伸ばしかけた手を美月は慌てて引っ込めた。 危ない…。触れたら呪われる所だった。 この部屋で発狂した所で救急車を呼んでくれる人などいないどころか、変な奴が奇声をあげていると警察に通報されてしまう。行動には注意しなければ…。 美月は自分を落ち着かせるために深呼吸をした。その吐いた息でカーテンレールに溜まっていた埃が美月の鼻の奥を直撃し、またも美月は大きなくしゃみをした。 ズズッと鼻水をすすりながらティシュを取るために椅子を降りるとブルッっと体を震わした。 「それにしても寒い…。風邪ひいちゃうよ」 この部屋なんでこんなに寒いのだろう? 外はあんなに暑かったのに。 そうだ。外は暑かった……。 何でもっと早くに思いつかなかったのだろう、窓を開ければいいのだ。 美月は鼻を咬んだティシュを丸めてゴミ箱に捨てるとカーテンを勢い良く開けた。 その瞬間、窓から物凄い閃光が迸り美月は白い光に呑まれた。
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