午後四時 この木の下で

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「空輝は、本当に何でも知ってるねー。先生よりも頭良いんじゃない?」 「そんなわけないよ。ひなたは知らなさすぎじゃない?」  ひなたと初めて会ってから、僕らは毎日同じ時間同じ場所で会い続けた。  ひなたは僕の話を何だって聞いてくれて、僕は毎日違う話題を提供しようと、いろんなところにアンテナを張り巡らせて。  そんな中でひなたが一番興味を持ってくれたのは、学校の勉強だった。 「あはは。そうかも。私、学校行ってないから」  そう言って穏やかに笑ったひなたの笑顔は、ほんの少し寂しいようにも見えて、それ以来ひなたのバックグラウンドには、踏み込めなかった。  登校拒否には、それなりに大きな理由がある。  みんなが揃って行ってる場所に行かないというのは、行かないことにも気力が必要で、そこに踏み込むのはこっちだって生半可な思いじゃいけないって、それぐらい僕にもわかってる。 「そっか。そしたら、僕が教えてあげるよ。何が知りたい?」  運良く、その頃の僕は割と勉強ができる方だった。だから、ひなたにせがまれるままにいろんなことを教えた。  歴史、科学、物理、数学、古典……  その後の人生に必要になんてならないようなことや、学校でも習わない細かいことまで、ひなたの興味が続く限り、話し続けた。  おかげで、悩んでた模試の結果も、心配なんてする必要もないぐらいになったっけ。    ひなたとの時間は平日の午後四時から一時間。  土日は家から出られない。  毎日同じ時間に外出してても怒られないぐらいには放任主義の両親。  それなのに、門限は午後五時。  ひなたの話は所々矛盾があって、聞けば聞くほど綻びが目立ってきてたけど、僕はそこに触ることはできなかった。  ひなたが僕の裏側を覗き込んでこない代わりに、僕もひなたの裏側は覗かない。  約束したわけじゃない。  二人の中の暗黙の了解。  それを破ったら、もしかしたらひなたは消えてしまうんじゃないかって、二度と僕とは会えないんじゃないかって、季節が過ぎゆけばゆくほど、不安が募る。  真夏に見たひなたの肌が、透き通るぐらい白くて、シャツの袖から覗く二の腕が、見たこともないぐらい細くて。  もしかしたら、ひなたは……
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