午後四時 この木の下で

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「先生ー! 空輝(そら)先生ー!」 「はぁーい。ここでーす」  看護師が僕を呼ぶ声が聞こえて、枝から身を乗り出して、返事をした。 「先生っ! またそんなところに登って。危ないですよ」 「大丈夫ですって。僕、こう見えて得意なんです。木登り」 「得意とかそういう問題じゃないです。急患が運ばれてくるんで、戻って下さい」  戻ってって、僕の休憩時間なんだけど。  お昼ご飯を抜いて仕事して、やっと手に入れた休憩時間。ただでさえ、最近はこの時間にここまで来ることができなかったのに。 「今行きまーす」  急患なら仕方ない。  地面に一番近い枝に足をかけて、僕は一気に飛び降りた。僕が飛び降りた反動で、さっきまで登ってた木が左右に揺れる。   うん。また来るね。  まるで手を振る様に揺れた木に向かって、もしかしたらその向こうの笑顔に向かって、僕は挨拶する様に手を上げた。   「くっそ……」  手にした模試の結果に八つ当たりする様に、くちゃくちゃに丸めて、葉の間から見える呑気に晴れた空に向かって、その紙玉を投げつけた。 「いたっ」  ヤバい! 人がいた!  僕の投げた紙玉は綺麗な弧を描いて下に落ちて、その先にいた女の子の頭に直撃した。  謝らなきゃって、焦って地面に降りた時には既に彼女は僕の模試の結果を丁寧に開いて。 「すごぃ……」  大きく目を見開いて、ため息混じりにそう呟いた。 「ごめん! 当たった……よね?」 「うん。これ、君の?」 「う、うん。そう」 「凄いね。頭、良いんだ」  関心するような顔で、ほんのり浮かべた笑顔は、同級生のどんな女の子よりも可愛くて、それでいて少し影があるようにも見えた。    ひなたとの出会いは本当に偶然だった。  あの日、たまたまこの町で一番大きな木に登って、自分と同じ名前のソレに近づこうとしたくなった。  模試の結果が思った以上に悪くて、なんとか自分の気持ちを引き上げようと、ただそれだけの理由。  普段は近づきもしない場所でのひなたとの出会いは、僕にとっては本当に運命的で、ひなたにとってはただの偶然で。  出会ったその瞬間から、僕らの気持ちはすれ違ってたんだ。
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