0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
♢
「わたし、これからグーを出しますっ!」
闇に宝石箱をひっくり返したみたいに、高らかに響き渡ったその宣言。
ここは、中規模のライブハウス。
私──永露氷雨は目の前で拳を掲げる彼女──暁月茜音をじっと見つめた。茜音の、オレンジとバニラのミックスソフトクリームに似た衣装が、頭上のスポットライトを反射して輝いている。私を見つめ返す彼女の瞳には、まるでコルクボードにピンで留めた恒星のような輝きが宿っていた。
茜音からそっと視線を逸らす。その先にあった足元のモニターには、光の中で向かい合う私と茜音が映っていた。私は茜音とは対照的に、ソーダとバニラのミックスソフトみたいな衣装に腕を通している。
唐突だね、茜音。
内心でツッコミを入れながら、私は不意に思い出した。
唐突といえば、私がいま身を置いている状況もそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!