シキヨクの蔓延る家

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 鍵を取り出しドアを開けようとした時、肩に冷たいものが触れ身体が縮こまった。  「おや、今日入居の方かな?」  背後からしわがれた声が聞こえた。恐る恐る振り返ると満面の笑みを浮かべる長身の男性が立っていた。  「はじめまして。今日来ました。鈴木です。よろしくお願いします」  全く足音すらせず、唐突だったためそっけない挨拶になってしまった。  「鈴木さんね。よろしく。私は隣に住んでる大家の向井といいます。何か不便ありましたら何でも言ってくださいね」  ありがとうございますと会釈をし、大家さんは自室へ入ろうと鍵を回した。その時に一言、「鈴木さん、塩は持ってるかい?もしなければあげましょうか?」と言った。やはり確実に心霊現象があるのかと思ったが塩は常に持っているため丁重にお断りすると大家さんは自室へ消えていった。  僕も部屋に入り、電気をつけた。古い外観と比べ中は綺麗なものだった。入って左側に洗面所、奥にバスルーム、右側にキッチン、細い廊下の奥に障子戸があり、真ん中に壁を隔てて5畳ほどのフローリングの部屋と和室の部屋があった。少し嫌な気配を感じたのは和室の部屋からだった。妙なお香の匂いが漂い死臭が漂ってきているように感じた。それに誰かに見られているような不快な視線とどこか暖かい別の視線を感じた。それだけでここには確実に何かがいると直感をした。だが、現状は辺りを見回したが何かを視るということはなかった。  僕は引っ越した疲れも生じ、今日のところは風呂に入って寝ることにした。荷物は明日届く、今日は持ってきた洗面用具を取り出し、風呂に向かった。  浴室は石畳のようなタイル張りになり、1人がやっと入れるほどの小さな浴槽が設置されていた。シャワーを浴びていた時、背後から「イタイ、イタイ……誰か……タスケテ」という女性の声がはっきりと聞こえ、咄嗟に背後を振り返った。その途端血の鉄臭い臭いが広がり、正面のガラスの色が濁り始めた。背後には何もいなかった。ここじゃないと急いで風呂を飛び出し、タオルで体を拭き、服を着、血の臭いがする方を辿った。  綺麗にがどす黒い色に変わり、まるで異世界に迷いこんだかのような錯覚に陥った。初日から霊障が起きるとはなんたる物件だと恐怖心よりも好奇心が勝っていた。どす黒い色は1つの線となり和室へと続いていた。障子に月明りに照らされ黒い大きなシルエットが浮かび上がっていた。この向こうに何かいる。緊張とわくわくで汗ばんだ手を取っ手に掛け、一思いにスライドさせた。
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